【北京】中国のテレビ司会者だったチョウ・キンホンさんは今年6月、自分の卵子を冷凍保存するため、米カリフォルニア州の不妊治療クリニックを訪れた。母国の中国ではできないからだ。
中国の多くの女性たち同様、チョウさんもキャリアを積み上げることに力を注いできた。「毎日残業で、デートする時間もない」と話す。
40代のチョウさんはいずれ子供がほしいと考えている。先に夫を見つけることができなくてもだ。
チョウさんは米国など海外で卵子を冷凍保存することを公表した中国人女性の一人。いま中国ではこうした女性が増えている。このため、不妊治療に制限を設けている中国で議論が巻き起こっている。
中国にある精子バンクは20に満たない。卵子の冷凍保存に関して、保健当局は子宮頸(けい)がんなど、疾患がある場合に限り許される方法だとしている。さらに、結婚していることが条件だ。
中国国家衛生計画出産委員会はコメントの求めに応じていない。
北京の金融業界で働くトム・タンさん(30)は独身女性の卵子冷凍保存を禁止することを支持している。「卵子の冷凍保存が許されれば、結婚しないで子供を持つ人が多くなる」と話す。
「一人っ子政策」を導入した1980年代以降、中国指導部は人口増加を抑えるため出産を制限してきた。
子供を持とうと計画している夫婦でさえ、当局に登録する必要があり、許可なく子供を持てば罰金が科せられる。その結果、海外で子供を産む未婚の母を生み出している。とはいえ、結婚せずに子供を持つ女性は増えており、学校や社会福祉のために出生を届け出ると罰金に直面することになる。
2年前には夫婦のうちどちらかが一人っ子の場合に限り、2人まで子供が持てるように規則が緩和されたが、ベビーブームは起きていない。人口統計学者は今後予想される労働力不足に歯止めをかけるため、出産制限を完全に撤廃すべきだと訴えている。世界銀行の最新データによると、中国の出生率(1人の女性が生涯に産む子供の人数)は2013年に、現在の人口を維持できる「置換水準」(2.07程度)を下回る1.17となった。
先進国と同様に、中国でも多くの人がキャリア形成を重視するため、晩婚化が進んでいる。晩婚化は女性の晩産化を意味する。中国社会科学院と広州医学院によると、中国人女性が第1子を出産する平均年齢は2000年の26.3歳から2010年には28.2歳に上昇した。
米国で卵子を冷凍保存する中国人女性が増えている Photo: Zou Qinghong . 北京大学第三病院の不妊治療クリニックの待合室には患者が溢れていた。その中には、28歳のリ・シュエさんのように比較的若い女性も含まれている。リさんはこれまでに3回、体外受精を試みた。4回目に挑戦中のリさんは「子供を持つよう親族から大きな圧力を受けている」と話す。
不妊治療クリニックの医師によると、毎日平均で1600人から1800人の患者が不妊治療のため第三病院に来院する。同医師は、需要はもっと多いはずだが、少なくとも5000ドル(約60万円)の治療費をまかなえる人はそう多くないと話す。
だが、こうした需要拡大は米国に波及している。米国では胎児の遺伝子検査を行い、性別を選ぶこともできる。こうした需要に応えるため、中国には米国のクリニックの仲介を手掛ける医療コンサルティング会社もある。
カリフォルニア州アーバインにある不妊治療センターの専門家によると、毎年1500人から1800人の中国人が来院しているが、その大半は既婚者で不妊治療が目的だという。卵子の冷凍保存を目的に来院する女性はそのうちの5%未満だが、その数は増えていると話す。
米コロンビア大学で公共政策学の修士号を取得したチョウさんは最近、テレビ局を辞めた。中国の高所得層向けにインターナショナル・サマースクールのプログラムを始めるためだ。
チョウさんは、卵子の冷凍保存をするのは仲間内では自分が初めてだと話す。こうした選択肢があることを知っている中国人はまだ少ないうえ、またそのために高いお金を出せる人はさらに少ない。チョウさんはカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)付属病院の不妊治療センターに2万ドル(約240万円)を支払った。血液検査をはじめとするすべての費用がこれに含まれている。センターの医師によると、卵子の冷凍保存は通常1万1000ドル前後で、近年は中国人の希望者が増えているという。
チョウさんは「すべての女性が費用をまかなえるわけではない。政府には、すべての女性が人生の選択肢を持てる、その助けとなるような政策を作ってほしいと思う」と語った。
引用元:
増える卵子の冷凍保存、中国人女性が米国で(ウォールストリートジャーナル)