モーハウスが作成した「おっぱい絵巻」なるものを、茨城県や隣接する埼玉県の一部の市町村で、母子手帳交付の際に、妊婦さんに配布していただいています。

 2010年の取り組み開始から、配布を希望してくれる市町村はじわじわと増え、今では茨城県ですと全44市町村中、32市町村で配布が行われるまでになりました。

 「お母さんになったとき、これを知っていたら悩まなくて済むのにな……?」と思う母乳育児の情報をイラストでわかりやすく説明した、「おっぱい絵巻」。今回はこの「おっぱい絵巻」の取り組みの背景や、行政とコラボするためのアプローチについて、お話ししてみたいと思います。

2010年スタート、現在は35市町村で母子手帳とともに配布
 まず「おっぱい絵巻」とは。その正式名称は、「授乳生活が楽しくなる らくらくおっぱい絵巻」。これから授乳生活を送る、マタニティー向けの情報をまとめた小冊子です。時系列で妊娠の経過がわかるカレンダー形式をつけたのも、に嬉(うれ)しい特長。

 内容は助産師さんや小児科医など専門家の監修のもと、母乳育児生活をスムーズに送るために知っておいてほしい知識を解説。助産師さんのアドバイスやイラストを織り交ぜながら(だから、絵巻!です)、わかりやすく掲載しています。赤ちゃんが生まれる前から母乳育児への準備を始めることで、産後に起こりうるさまざまな問題を予防することが、この絵巻の大きな役割です。

 茨城県を通して、配布希望の市町村を募る形で、10年にスタートした「母子手帳と一緒に『おっぱい絵巻』を配布」の取り組み。当初は20件ほどの市町村からスタートしましたが、じわじわとクチコミで広がり、今ではつくば市や守谷市などの主要都市も含めた茨城県、埼玉県の一部を合わせて全35市町村で配布してもらうまでになりました。

自分を責めないで! 伝えたい母乳育児の正しい知識
 そもそもこの「おっぱい絵巻」が生まれた背景は、「お母さんになるなら、これを知っていたら悩まなくて済むよね」と思うような情報が、実際には、妊婦さんたちに伝わるルートがないなぁ……、と感じていたから。

 「そういった情報って、実は母子手帳を見ていても得づらいんです」というスタッフからの複数の声も。母子手帳は自治体ごとに内容が異なるので一概には言えませんが、特に授乳のことは掲載していなかったり、載っていても情報が少ないところがとても多いと感じています。

 正しい母乳育児の知識が伝わらないと、結果として何が起こるか。例えば、周囲の環境など外的要因で母乳が出ないお母さんたちが、正しい情報がないことで「母乳が出ないのは自分のせいだ……」と、自分を責め、ひとり悩んでしまったりもするんです。これって、実はよくあること。

 それなら、マタニティーのママたちに知っておいてほしい情報を、母子手帳を配るときに副読本みたいにして付けられたらいいかもね、と考えました。

 そこで、お産関係の雑誌や漫画をつくっていた知人たちに声をかけ、“お産クリエイティブ”のプロフェッショナルチームを結成。お産漫画を描いていた方にイラストをお願いし、お産の雑誌をつくっていた方に冊子の編集をお願いし、内容は助産師さんの監修のもと、「おっぱい絵巻」が生まれたのです。

物事を変えたいなら、対立ではなく“第3の道”を探そう

マタニティカレンダー もちろん、いくら情報豊かな「おっぱい絵巻」を作成しても、母子手帳の副読本として同時配布してもらうには市町村の協力が必要です(作成費用はモーハウスの負担です)。さて、どうしたら協力していただけるだろう……。こんなふうに、自分ひとりの力では現状を変えられなくて、誰かの力をお借りしなければならないなと思うとき、よく思うことがあります。

 それは、本当に社会の現状を変えたいなら、一見遠回りにも見える“第3の道”を探すのが、実は一番の近道じゃないかな、ということ。世の中では、社会に対する不満に「どうしてわかってくれないの!」と対立して声を上げるか、またはその逆で、理想論を語るだけで終わり……、という場面を見かけることが多いように思います。でも本当に「変えたい」と思うのなら、対立するだけでも、理想を語るだけでもない、第3の道ってあるんじゃないのかな、と思うんです。

 もともと、私の場合、対立のアプローチがどうも苦手なんです。そもそも、赤ちゃんの電車内での授乳問題に、「女性専用車を作ってください!」というアプローチでなく、自分で授乳服を作ってしまえ、というアプローチだったのも、同じ理由です。

そして、例えばこのときも、もし真正面から「今の母乳育児支援は不十分だ! 母子手帳の中身を変えてください!」と、真っ向から反対していたら、最終的にやりたいことは同じだとしても、行政の方々は話を聞いてくれなかったかもしれない、と思うんです。

 そうではなくて、あくまで第3の道を一緒に探す。このときは、茨城県知事とお話できる機会に、どんなふうにお話ししたら母乳のメリットを理解していただきやすいかなと考え、「経済効率的にも“母乳”ってお得なんです」という、ちょっと違った切り口でお伝えしたりもしてきました。

知識のシェアで「産後うつ」からの虐待も抑止?
 例えば、赤ちゃんが泣きやまないことにイライラし、自分を追い込んで、手が出てしまう……という、産後うつからの虐待という社会問題。そんな可能性のあるお母さんも、もし母乳の正しい知識があり、効果的な育児スキルをもってストレスなくラクに育児ができれば、虐待の抑止力になるかもしれない。つまり、お母さん一人ひとりが正しい母乳の知識を身につけることで、それ以外の問題の対策にもつながる側面もある。それは、限られた税金をより有効に配分することにもつながるのではないですか?と。

 対立ではなくて、どうやったら両者で第3の道をつくれるか。どうやったら伝わるだろう、わかっていただけるだろう。そんなふうに考えながら知事や副知事ともお話ししたところ、結果的に快く県のお墨付きをいただいて、県経由でも、各市町村からの申し込みを募ってもらう運びとなりました。

 対立関係から一歩ひいて、ちょっと発想を変えてみる。一見、回り道のようにも見えるその道が、本当は実現に向かう一番の近道なのかもしれません。



引用元:
35市町村で配布中の「おっぱい絵巻」って?(読売新聞‎)