妊娠中や授乳中に使った薬が赤ちゃんに影響しないだろうか。不安を抱く女性に、専門の医師や薬剤師が助言する「妊娠と薬情報センター」が国の事業としてスタートして今年で10年。薬をやめるのが難しい、持病がある女性の妊娠出産を支えるのが重要な役割だ。

 ●諦めなくてよかった

 川崎市の山根佑季子さん(37)は6月、待望の長男を出産した。結婚9年目。20代で発病した関節リウマチの症状を薬で抑えながらの妊娠だっただけに喜びもひとしおだ。症状が重いとき、主治医に「妊娠は難しいかも」と言われたこともあった。「長かったけど、諦めなくてよかったです」。夫の浩二さん(45)も傍らでほほえむ。

 関節リウマチは、手足の関節が腫れて痛む自己免疫疾患。国内に約70万人といわれる患者の多くは40〜50代での発病だが、妊娠出産が多い20〜30代の発病も全体の3割強を占める。

 佑季子さんは妊娠への影響を心配し、結婚直後は薬を控えた。すると高熱が毎日続くなど、病状が悪化。3年近く治療に専念して自分に合う生物学的製剤が見つかり、妊娠を考える余裕ができた。しかし、新たな不安が頭をもたげた。赤ちゃんのために、頼みの生物学的製剤を早めに休むべきか。「妊娠中の投与に関する安全性は確立されていない」という添付文書の文言からも、休むに越したことはなさそうだ。でもまた悪くなったら……。悩んだ末、妊娠と薬情報センター(東京)の村島温子センター長を夫婦で訪ねた。

 ●プラスになる道探る

 村島医師は国内外のデータを調べ「生物学的製剤の中止は妊娠確認後でよいと考える」と主治医に手紙を書いてくれた。その通り実行。妊娠中は別の薬1種類で乗り切った。しかし出産後2週間ほどで手足が強く痛みだした。生物学的製剤の使用を再開したいが、母乳への影響はどうだろう。添付文書はまた「安全性は確立していない」だ。

 再び情報センターに相談。「薬の量と成分の特性から、赤ちゃんへの影響は考えにくい」との助言を得た。だが実績があるわけではないという。村島医師は「国内には薬の赤ちゃんへの影響に関するデータが少なく、判断に苦労する場合もある。しかし薬をやめて病気が悪化すれば、妊娠や育児自体が不可能になる」と指摘し、こう話す。「大事なのはお母さんと赤ちゃんに総合的にプラスになる道を探ること。母乳についても赤ちゃんへのメリットがリスクを上回るとの判断になることが多い」

 佑季子さんは、母乳を続け、生物学的製剤の使用を再開することを選んだ。「何が本当の正解か分からないので不安はあります。同じ病気で出産した人の情報をもっと知りたい」と話す。

 センターが今年5月までに受けた相談は約1万2000件。佑季子さんのように持病がある人の相談は今後増えると村島医師はみる。女性の出産年齢は上がっており、年齢とともに慢性疾患のリスクも上がるためだ。女性たちに日本のデータを基に助言したいし、薬の添付文書にも内容を反映させたい。村島医師らはそう考え、相談者の妊娠の経過を追う研究を続ける。

 相談は、センターのホームページ(http://www.ncchd.go.jp/kusuri/index.html)などから問診票を入手しセンターに送る。全国33拠点病院の「妊娠と薬」外来などで相談できる。問い合わせは同センター、電話03・5494・7845へ


引用元:
くらしナビ・医療・健康:「妊娠と薬情報センター」10年 持病ある人の出産支え(毎日新聞)