今すぐではないけれど、将来は妊娠したい、元気な赤ちゃんを産みたい――。そう思っている人は多いのでは? 先の話だとしても、今からやっておいたほうがいいことはたくさん。元気な赤ちゃんを授かるための6つの準備を紹介します!

「もしも今、妊娠したら……と想像してみてください。あなたの体は妊娠出産に好ましい状態だと思いますか?」






 そう問いかけるのは、東邦大学医療センター大森病院産婦人科の片桐由起子准教授。妊娠はゴールではなく、スタート。妊娠出産という一大事業を母子ともに健康に乗り切るには、それなりの“準備”が必要。「妊娠を望んでいる人は、その時が来たら、ではなく、今から準備を」と片桐准教授は強調する。

「例えば、いざ妊娠をとなったときに子宮筋腫や子宮内膜症、あるいは甲状腺の病気などがあって、そちらの治療を優先させなくてはならないケースも多い。30代後半以降の不妊治療は時間との闘いだが、このために半年から1年程度、治療開始が遅れることもある」(片桐准教授)。

 また妊娠を機に隠れていた病気が出てくることも。例えば妊娠中に血圧が高くなる「妊娠高血圧症候群」や血糖値が高くなる「妊娠糖尿病」などは、その代表。日ごろから塩分や糖質を多くとっている、高血圧や糖尿病の家族がいる場合などはそのリスクが高い。こうした病気は赤ちゃんにも悪い影響が出ることがあるので、妊娠中は管理が必要になる。「今は何の異常もなくても、妊娠を引き金に発症することがある。それだけ妊娠は女性の体にとって負担が大きい。だからこそ、妊娠前から病気の芽が大きくならないように体を整えておくことが大切」と片桐准教授は言う。


やっておきたい6つのこと


1 婦人科の病気を治す

子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣のう腫などの持病がある人はきちんと治療を。今すぐ治療が必要でなくても、定期的な受診を忘れないで。

2 “隠れ持病”のチェック

比較的多いのは甲状腺の病気。また高血圧や糖尿病などの生活習慣病は日ごろの食事や運動不足、家族歴などが関係するので気をつけて。

3 やせと太りすぎの人は適正体重に

やせていても胎児の健康に影響が大。肥満(BMI25以上)では妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスクが上がる。適正体重を目指して!

4 葉酸、ビタミンD、鉄など不足栄養素を十分とる

葉酸やビタミンDは妊娠初期から胎児の神経や骨の発育に欠かせない。妊娠出産では母体が貧血になりやすいので鉄もしっかり摂取を。

5 運動や入浴などで卵巣の血流を上げておく

卵巣の血流がよくないと、卵巣機能が落ちて受精率や妊娠率が低下するとの報告が。運動や入浴で骨盤内の血流をよくしておこう。

6 禁煙する

喫煙すると血管が収縮し、卵巣の血流状態にも悪影響が。喫煙は卵巣の老化を促進させ、喫煙者は閉経が早いとの報告も。禁煙しよう!




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母体がやせていると子供がメタボ化しやすい!?

 また最近、大きな問題になっているのが、女性の“やせ”だ。20代の約5人に1人、30代の6人に1人が、BMI 18.5未満のやせに該当(下のグラフ)。やせだと、妊娠しにくいことがある上、生まれてくる赤ちゃんにも問題が。2500g未満の低出生体重児になるリスクが上がり、将来、2型糖尿病や高血圧、メタボリック症候群などの生活習慣病になる危険性が増すと指摘されているのだ。


20代の5人に1人が「やせ」



20代と30代の女性のやせ(BMI18.5未満)の割合を示したもの。2013年は20代が21.5%、30代は17.6%。BMIは体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}で算出。最も病気になりにくい値は22とされる。(データ:国民健康・栄養調査)


低体重で生まれる子どもは何が心配?

■ 2型糖尿病
■ 虚血性心疾患
■ メタボリック症候群
■ 本態性高血圧
■ 脳梗塞
■ 脂質異常症
■ 神経発達障害
…などの発症リスクが上がる

低体重で生まれると、将来、これらの病気になるリスクが高まる。胎児期には、最初の約1000日間の母体の体内環境が、病気の素因を作ると報告されている。








「母体がやせた状態だと、胎児は飢餓状態を生き延びられるような体にプログラムされてしまう。その結果、普通に食事をしてもより太りやすくなり、生活習慣病になるリスクが増すと考えられる」と片桐准教授。

 母体の体内環境は胎児に大きな影響を及ぼす。やせだけでなく、肥満や喫煙も同じ。今のうちから適正体重を目指し、喫煙している人は禁煙しよう!

 また、妊娠できる体を維持するには冷えの改善も重要だ。「骨盤内の血流がよくないと、卵巣機能も低下しやすい」と片桐准教授。下グラフは、卵巣の血流状態と体外受精の成績との関係を調べたもの。血流状態がよいほど、受精率、妊娠率ともに高い。「お風呂はシャワーだけですまさず、湯船につかって体を温める、運動する、体を締め付ける衣類を着ないなど、日ごろから骨盤内の血流をよくするよう心掛けて」と片桐准教授。「いつか赤ちゃんを」と思っている人は今から準備を!



血流が悪い人は妊娠しにくい



不妊治療で体外受精をした22〜43歳の女性56人が対象。三次元ドップラー超音波で卵巣の血流を測定し、受精率、妊娠率との関係を調べた結果、卵巣の血流状態が悪い人ほど、受精率と妊娠率は低かった。(データ:Human Reproduction;17,4, 950-955, 2002)


不妊治療は大きく4段階
年齢に応じてより高度な治療に早く進む


排卵に合わせて性交する「タイミング法」から、「人工授精」、「体外受精」と、より高度な方法へとステップアップしていくのが不妊治療の基本。ただし、年齢が高い場合は早めに高度な段階に進むことも多い。高度な不妊治療とはいえ、妊娠・出産率は女性の年齢が上がるにつれ低下する。特に30代後半になったら、少しでも早く始めたい。


―――● タイミング法 ●―――


基礎体温や経膣超音波検査などから、排卵日を正確に予測。それに合わせて性交をする。当日だけでなく、その前後に複数回するといい。



―――● 人工授精 ●―――







男性の精液を採取し、よい状態の精子を選択して洗浄。女性の子宮の奥へ注射で注入する。精子が少ない、射精障害がある場合などに効果的。
男性の精液を採取。その中から、よく動く元気のよい精子を選び、洗浄。それを女性の子宮の奥に注入する。




―――● 体外受精 ●―――







卵巣から卵子を、男性から精子を採取。それらを培養液の中で受精させ、受精卵を子宮に移植。1回当たりの妊娠率は年齢によるが、一般に30〜40%。
採取した卵子と精子をシャーレの中で受精させ、その受精卵を子宮に戻す。不妊治療の中では最も妊娠率が高い方法。


―――● 顕微受精 ●―――


卵子と精子を採取し、顕微鏡で見ながら1個の精子を細いガラス針で卵子の中に注入する。精子の状態がよくない場合に行われる。



いつか赤ちゃんが欲しい人が
気になっている「卵子凍結」って?

自分の卵子を採取して保存する「卵子凍結」。本来はがんなどの患者が対象だが、最近は将来の妊娠に備えたいと未婚女性の利用が増えている。「ただ、この方法で将来の妊娠が保証されるわけではない。凍結した卵子で妊娠できる確率は、通常の体外受精の半分程度でしかない。また卵子は若くても、母体は着実に老化することを忘れないで」(片桐准教授)。


引用元:
元気な赤ちゃんを授かるために、いま必要な6つの準備(日経ウーマンオンライン)