新生児医療の発展や晩産化、医師不足などの医療環境の変化を背景に、帝王切開による分娩(ぶんべん)が増えている。病院での分娩では四人に一人を占め、約三十年間で割合は約三倍に増加した。しかし、妊産婦への帝王切開の情報が不十分で、周囲の偏見や自分の葛藤を乗り越えられずにいる母親も多い。 (安食美智子)


 「出産した日の自分に、どんな声をかけてあげたいですか?」


 東京都杉並区の児童館で開かれた「帝王切開ママの会」の集い。主宰する細田恭子さん(50)が、帝王切開で出産した三人に問いかけた。「かける言葉なんて見つからない」。区内に住む女性(41)が泣き崩れた。


 女性は次女(九カ月)を帝王切開で出産し、「手術でも感動するんですね」という看護師の言葉が胸に刺さった。長女(2つ)も帝王切開。「長女の出産後から続いたモヤモヤした気持ちは、周囲の言葉に傷ついていたから」と振り返る。


 大田区の女性(31)は長男(八カ月)の出産時、「全身麻酔で産声を聞けなかった。本当に産んだのか確信できず、かわいいと思えない」と涙ぐむ。


 細田さん自身も娘三人を帝王切開で出産。「自然分娩ではない」という偏見や、自分が抱いていた理想の出産とのギャップに苦しみ、十五年前から帝王切開の情報サイト「くもといっしょに」を開設。六年前に始めた「帝王切開ママの会」では、約二百人が苦悩を打ち明けてきた。


 細田さんは「帝王切開は麻酔で痛みから逃れ、楽だと捉えられがち。出産に戸惑い、周囲の言葉で苦しむ現実を理解して」と話す。


 二人を帝王切開で産んだ千葉県流山市の会社員宮尾八重さん(35)は、今年四月から「帝王切開Cafe」を開いている。宮尾さんは、「気持ちを分かち合うだけで救われる」と話す。


 分娩件数が減る中、診療所を除く一般病院での帝王切開の割合は二十七年間で三倍に。二〇一一年は24・1%に及んだ=グラフ参照。


 産婦人科医で、東峯婦人クリニック(東京都江東区)の竹内正人副院長は「晩産化が進み、難産になりやすい高齢初産婦が増えていることが背景にある」と説明。医師・助産師の不足や過重労働、医療訴訟の増加などのため、医療者側が帝王切開を予定する傾向が強まっている上、緊急手術も増えている。


 しかし帝王切開後の母親へのケアは取り残されたままだ。ベネッセ次世代育成研究所の調査(二〇一一年)では、「お産は自分が望んでいたように進んだ」「お産で幸せな気持ちがした」など五つの設問で出産体験を聞いたところ、緊急手術では満足度が低い人が約八割に達した。


 細田さんは「帝王切開の痛みや術後の苦労を知ってもらうことが、周囲の偏見をなくし、帝王切開への抵抗感を薄める」と話す。


 =次回は二十二日掲載


引用元:
増える帝王切開 広がるケア(上) 偏見に傷つき… 語り合う場に救われる(東京新聞)