卵巣がんになる可能性を6倍に高める。そんな性質を持っているある遺伝子の突然変異がどのようにがんにつながるかがこのたび突き止められた。

遺伝子の中に「いとこ」
 英国のフランシス・クリック研究所を中心とした研究グループが、分子細胞生物学分野の有力誌であるセル誌で2015年7月16日に報告した。

 進化の過程で、何かの拍子により遺伝子が本来の数よりも多くなる場合がある。いわば遺伝子に重複が生じることになり、よく似た重複している遺伝子を「パラログ」と呼んでいる。

 パラログは互いに構造が似ているものの機能は異なる。パラログ遺伝子からは、「いとこ」のようなタンパク質が作られる。

 パラログ遺伝子に突然変異が起きていると、乳がんや卵巣がんの発症リスクが高いと知られていた。

 その一つとして、「RAD51パラログ遺伝子」という遺伝子があり、研究グループはここに注目している。突然変異があると、卵巣がんの発症リスクは6倍も高くなる影響の大きな遺伝子となる。

ちぎれたDNA修復の仕組みに注目
 研究グループはRAD51遺伝子の本来の役割について、「損傷したDNAを修復する過程で働く遺伝子」と確認している。

 DNAは、2本のDNA鎖が対になり、らせん状に並行していく「2重らせん構造」を取っている。もしDNAの鎖が2本ともプツリと切れてしまったら、できる限り早く切れた部分を特定して修復しなくてはならない。細胞死やがんにつながるからだ。

 修復には2つの仕組みがある。一つは、単純に切れたDNAをのり付ける仕組み、もう一つは正しい型に併せてちぎれた状態を元通りにする「相同組換え」という細胞分裂のときに進められる仕組みだ。

 このうち研究グループは相同組換えの仕組みにRAD51は関わると確認している。

 そもそも相同組換えとは、細胞分裂と関係している。細胞が分裂するときに、DNAは「染色体」と呼ばれる塊を作る。正しく分裂後の細胞に分配されるために必要なプロセスとなっている。1つの細胞に染色体は、人間の場合、父から受け継いだ染色体と母から受けついた染色体が対を作って、合計23組がある。

 細胞分裂が始まると、2つの細胞になるために、23組の染色体はいったん2倍にコピーされる。このときに染色体の間でエリアごと入れ替わる場合があり、「相同組換え」と呼んでいる。進化にも関係した仕組みで、DNAの修復にも関係している。例えば、ちぎれたところがあると、対応する場所をやりとりして、DNAを元通りにできるからだ。

 ここを円滑に進めるために関係するのがRAD51となる。

DNAの切れた端っこを補う
 RAD51とRAD51パラログはコンビニなって相同組換えでこるDNAの修復をうまくコントロールしていた。

 DNAのちぎれた端っこをRAD51タンパク質が補い、さらに、RAD51タンパク質の合間に、RAD51パラログタンパク質が入り込む。DNAのちぎれたところに柔軟性が生まれて、相同組換えによる修復をスムーズにしていた。

 RAD51パラログに突然変異が起きると、相同組換えに異常が起きて、修復ミスが起こりやすくなり、がんにつながっていた。

がんを押しとどめるヒントに?
 これまで実験室レベルでの検証で確認しており、さらに人でも確認を進める見通し。RAD51パラログの突然変異でがんを促しているので、がんを押しとどめるヒントになり得ると研究グループは見る。

 4年越しで研究に取り組み、詳細な仕組みの解明にたどり着いた。粘り強さから新しい医療は生まれてくる。



引用元:
「卵巣がん6倍」につながる遺伝子突然変異、DNA修復に秘密あり(Medエッジ)