ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンは、女性の子宮頸がんを予防するためのワクチン。このたび、新しいタイプのHPVワクチンが開発された。

 子宮頸がんによる死亡者数を国際的に見ると、発展途上国のウエートが高い。全世界の85%を占めており、今回の新ワクチンは国際的な普及も視野に入っており、意義が大きいと見られている。

ワクチンは「空っぽのウイルス」

 ドイツのドイツがん研究センター(DKFZ)を中心とした研究グループが、がん予防医学の専門誌キャンサー・プリベンション・リサーチ誌のオンライン版で2015年7月13日に報告した。

 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚や粘膜に感染するウイルス。女性が感染すると、子宮頸がんの原因となる可能性がある。既に先進国の多くでは、子宮頸がん予防のためにヒトパピローマウイルスワクチンの接種が行われている。

 現在、ワクチンに使われているのは、「VLP」と呼ばれる空っぽのウイルス粒子。ウイルスの中身である遺伝子などは入っていない。ウイルスの殻の成分である「L1」というタンパク質は持っており、このL1によってウイルスへの抵抗力を付けている。

既存のワクチンの課題を解決

 VLPのワクチン効果は高いが、その一方でいくつか克服すべき課題もある。

 例えば、ヒトパピローマウイルスには複数のウイルスタイプがあるが、VLPはそのうちの限られたタイプにしか効果がない。また、VLPワクチンの生産コストは高い。さらに冷蔵輸送する必要がある。発展途上国などへの大量輸送は難しい。

 研究グループは、子宮頸がんの対策が重要になっている発展途上国をはじめ導入しやすい新ワクチンの開発に取り組んだ。

ワクチン効果の高い部分に注目

 ウイルスの殻を構成するタンパク質は、L1のほかにもう1つ殻の形成に補助的に働くL2がある。L2は、L1よりも数が少ないがワクチンとして接種した場合、L1よりも、体に「異物」として強く認識され、強く免疫が付く。

 研究グループは以前に、細菌の「チオレドキシン(Trx)」というタンパク質の中に、L2の一部分を組み込んだ「Trx-L2」を遺伝子操作で作った。

 L2を含む全ての「タンパク質」は、20種のアミノ酸がそれぞれ決まった順番でつながってできている。今回、Trx-L2に組み込まれたのは、L2の20番目から38番目までのアミノ酸部分「L2(20-38)」だ。

 元のTrxと、作ったTrx-L2を比べたところ、Trx-L2の方が、より強く体に異物として認識されると分かった。特にL2(20-38)の部分が強く認識されていた。ワクチンとして接種した場合、L2(20-38)は免疫効果が高い部分となる。

3タイプのウイルスに対応させた

 この発見に基づき、今回研究グループは、ヒトパピローマウイルスの3つのタイプ「HPV16」「HPV31」「HPV51」のどれにでも効果を持つTrx-L2を作った。

 「HPV16」「HPV31」「HPV51」のL2(20-38)は、構成しているアミノ酸の順番や種類が少しずつ異なっている。今回作ったTrx-L2は、3タイプのL2(20-38)を全て持つ。

 このTrx-L2について、ワクチン効果を検証した。

ウイルス13種中12種に有効

 ワクチンは、効果を高めるために「アジュバント」と呼ばれる免疫増強剤を混ぜる場合が多い。今回、Trx-L2に人間で使用されるアジュバントを混ぜてワクチンとした。

 まずはシャーレの中で培養した免疫細胞を用いて、ワクチン効果を検証した。検証は、ワクチン効果を調べるための4通りの実験によって行われた。「Trx-L2+アジュバント」ワクチンは、低用量で幅広いウイルス防御効果を持つと確認された。

 人間に感染してがんの原因になると知られているヒトパピローマウイルスは、現在13種類ある。Trx-L2ワクチンは、このうち12種類のウイルスに対して効果を発揮した。

ワクチン効果を確認

 次に、ネズミで実験を行い、実際に生きた体の中でワクチン効果が得られるかどうかを検証した。

 Trx-L2ワクチンを投与したネズミの膣内に、ヒトパピローマウイルスを感染させたところ、感染が抑えられ、強いワクチン効果が確認された。

生産の容易な次世代のワクチンへ

 このTrx-L2ワクチンは生産も簡単になっている。遺伝子組換えを行った「古細菌」という菌にワクチンを作らせる仕組み。組換え古細菌を増やしながら、Trx-L2も同時に増やせる。最終的には、熱を利用して、ワンステップで簡単にTrx-L2だけを取り出せる。

 実験段階で、実用化までの道のりは長いが、Trx-L2ワクチンは、冷蔵輸送を必要としない次世代の子宮頸がん予防ワクチンとなる可能性を秘める。


引用元:
子宮頸がん予防の「ヒトパピローマウイルスワクチン」、安価で冷蔵不要な新ワクチン(Medエッジ)