狭い机の上に、全23巻の絵巻物が2セット、計46本、ごちゃ混ぜに置かれている。それぞれ母と父から受け継いだものだ。さて、あなたはここから全23巻の絵巻物セットを再度つくり、それを子供に与えたいとする。あなたなら、どのような戦略をたてるだろうか。

 この難題は、生殖細胞に与えられた課題そのものである。生殖細胞は、絵巻物、すなわち遺伝情報が描かれた「染色体」を受精に備えて半数に減らし、卵子もしくは精子をつくる。減数分裂と呼ばれる過程だ。

 もちろん、やみくもに数を半分にすればよいというものではない。新しい絵巻物セットは、第1巻から第23巻までそろったものにしたい。ひとつでも欠けたり重複していたりしたら、物語は成り立たず、子供の健康に重大な影響を及ぼすのだ。

 だが、あなたは絵巻物をひとつ手に取ると安心するだろう。なぜなら、ふたつある第1巻同士はひもで束ねられていることに気付くからだ。

 同様に、第2巻同士も束になっていて、合計で23束ある。これなら、目をつむりながらでも間違えずに新しい絵巻物セットをつくることができる。ひとつの束を手に取り、ひもをはさみで切り、分かれたふたつの絵巻物のうちひとつを子供に与える。これをすべての束について繰り返せばよい。

生殖細胞が行っていることもこれと同じだ。細胞には手があり、ひもを持ち、はさみも持っている、と言うと奇妙に聞こえるだろうか。だが、実際に細胞は「微小管」という手で染色体を動かし、「コヒーシン」というひもで染色体を束にし、「セパレース」というはさみでコヒーシンを切る。だからこそ、卵子や精子に正しく遺伝情報を収めることができる。

 問題は、この減数分裂では、母体年齢とともに染色体数異常の頻度が上昇していくことだ。

 卵子の老化の重大側面のひとつである。その原因は、老化とともに細胞が使う道具が変質していくためだろう。手の力が弱くなるのか、ひもが緩くなるのか、はさみが切れにくくなるのか。まずはその答えを明確に知りたい。



引用元:
物語≠子孫に正しく伝達する生殖細胞 その驚異の仕組み(産経ニュース‎)