働きながら不妊治療を受けた人の9割が、仕事と治療の両立を難しいと感じ、このうち半数近くが、退職や休職など働き方を変えざるをえなかったことが、NPO法人が行ったアンケート調査で分かりました。

調査は、不妊に悩む夫婦などを支援するNPO法人「Fine」が、去年5月からことし1月にかけてインターネットを通じて行いました。
それによりますと、不妊治療を受けたことがあると回答した2152人のうち、91.9%が「仕事と治療の両立が難しい」と感じ、このうち半数近い836人、42.3%が働き方を変えざるをえなかったことが分かりました。
具体的には、複数回答で、「退職」が63%と最も多く、「転職」が14.5%、「休職」が12.4%、部署の「異動」が10.1%となっています。
働き方を変えた理由について、複数回答で尋ねると、「通院回数が多い」、「診察・通院に時間がかかる」など、治療そのものの負担を挙げる声が、いずれも6割を超えた一方で、「職場で治療に対する協力やサポートを得づらい」とか、「職場で治療に対する理解を得づらい」と、職場の理解不足を挙げる声も、それぞれ4割近くありました。
また、職場からどのようなサポートが欲しいかを聞いたところ(回答数1385人・複数回答)、休暇・休業制度、就業時間の短縮制度が、いずれも7割を超えたほか、治療費の融資・補助が47.6%、再雇用制度が28.8%などと、柔軟な就業環境を求める声が多くなっています。
調査したNPOでは、今後、国などに対し、仕事をしながらでも安心して不妊治療を続けられるよう、支援制度の整備や周囲の人たちが理解する風土作りを行うよう、働きかけることにしています。
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退職した女性「本当につらかった」

東京都内に住む40歳の女性は、結婚後7年間子どもを授かりませんでした。このため1年半前に不妊治療を始めましたが、当時、正社員として勤めていたインターネット関連の仕事との両立が難しくなり、ことし初め、やむをえず会社を退職しました。
女性は体外受精の治療のため、月4回ほどの通院が必要でしたが、その時の卵巣の状態などで治療の方法や時期が変わるため、突然、医師から通院日の変更や通う回数を増やすよう告げられたといいます。
これに合わせ、女性は急に仕事を休んだり、会議や打ち合わせのスケジュールを変えたりすることが重なっていきました。女性は、そのたびに「周囲に迷惑をかけている」と申し訳なく感じていましたが、同僚からは「休み過ぎだ」などと理解のないことばをかけられたこともあったということです。
女性の会社には、育児や介護などと違い、不妊治療の通院のために休暇を取得できる制度や、業務をカバーする態勢もなく、次第に女性は退職せざるをえないと思うようになりました。
女性は「仕事は楽しく、やりがいを感じていたので、続けたかったのですが、同僚に迷惑をかけ続けることもできず、職場にいづらくなり、悩みに悩んで退職しました。本当につらかったです。一定期間、治療に専念できる制度があれば、辞めなくてすみますし、同僚に嫌な思いをさせることもなかっただろうと思うと、悔しい気持ちです」と話していました。


「職場の支援と周囲の理解が必要」

今回の結果について、アンケート調査を行ったNPO法人「Fine」の松本亜樹子理事長は、「多くの人が子どもが欲しいと切実な気持ちで治療を受けながらも、職場に迷惑をかけていると悩み苦しんでいる。それでも理解が得られずに、退職を迫られるなど、ここまで厳しい現状があることに驚いた。妊娠や出産をした女性への職場での嫌がらせ、いわゆるマタニティハラスメントの前身の、“プレマタニティハラスメント”ではないかと思う」と指摘しています。
そのうえで、「不妊は今や夫婦の6組に1組が悩む身近な問題。職場での支援制度を整えるとともに、周囲の人が理解する風土作りが必要だ」と話しています。

引用元:
不妊治療「仕事と両立難しい」9割以上(NHK)