皆さんは、病院で治療を受ける際に、説明を受け、その説明に同意し、そして検査・治療を受けていると思います。これがインフォームド・コンセントです。

しかし、風邪をひいたときに病院に行き、「ではまず、熱をはかりましょう」と言われたときには、何も説明を受けず、体温計を受け取り、体温を測定しているのではないでしょうか? 

これは皆さんが、説明を受けずとも、体温を測定して体の状態を知ることは風邪の状況を評価するのに大切な検査であることをすでに理解しているため、「熱をはかりましょう」という言葉に同意しているわけです。

不妊治療においても、インフォームド・コンセントは重要です。すべての治療行為に関し、どの程度まで説明し、同意を得るかは、その行為がすでに一般的なものになっているのか、患者にリスクがあるのか、経済的負担があるのか、によって異なります。

例えば、基礎体温表について考えると、「基礎体温表をつけてください」という時に、この意義を説明し同意をとれば、インフォームド・コンセントとしては完璧ですが、時間がかかります。また、患者さんもほとんどの方が、その意義を知っています。また、基礎体温表をつけることは、毎日少しの負担はありますが、患者さんにとって大きなリスクが発生することはありません。

ですから、説明するとしても、「ホルモンの状態がわかるので、基礎体温表をつけてくださいね」くらいの説明で患者さんにつけてもらっています。でも、理由がわからない時は、いつでも聞いていただいて大丈夫です。治療というのは、患者さんの理解・納得の上で成り立つ医療行為ですから。

しかし、試みてもある程度の効果しか認められない治療や、患者さんの肉体的なリスクや経済的負担が大きい治療では、きちんとしたインフォームド・コンセントが必要です。このような治療の場合、口頭での説明や同意ではなく、書面での説明・同意が必要となってきます。

もちろん、患者さんにとって効果が期待できるので、その治療を提案するのですが、必ずしも100%ではありません。その治療の利点だけでなく、欠点についても正確に記載し、その記載された説明書を用いて説明し、書面で同意を取ることになります。患者さんにはその治療行為の良い面は印象強く記憶に残るのですが、リスクや負担の面に関しては、どうしても注意がいかない場合があります。ですので、説明の後でもお渡しした書面をもう一度よく読んでいただくことが大切です。

例えば、体外受精を行う際のインフォームド・コンセントがそうです。この治療法にもメリット・デメリットがあります。妊娠出産につながることはメリットですが、その確率は100%ではありません。30歳代前半では治療開始あたり約20%、40歳で7〜8%、45歳で約1%の出生率であることをしっかり伝え、理解していただく必要があります。

また、この手技の合併症としては、腹腔内出血や感性症などがあり、これらが発症する確率はとても小さい確率ですがあります。出産した児の状態に関しても、児の長期の健康状態の安全性は確定しておらず、まだまだ、慎重に成長経過を診ていく必要があると考えています。

私どもの不妊診療科においても、時間をかけて、治療内容について説明して治療に対し理解していただいていますが、もし疑問が生じればいつでも質問していただき、本人が納得して治療を受けることができるようにしています。


引用元:
不妊治療とインフォームド・コンセント(朝日新聞)