小児科の外来では、肺炎などの感染症が多かった20年前と比べ、食物アレルギー、小児ぜんそく、アトピー性皮膚炎といったアレルギー性疾患が増えている。

 アレルギーは、遺伝の要素が大きいとされる。ただ、遺伝子は昔も今も変わりようがない。遺伝に加え、食生活も含めた環境の変化が、その増加の原因と考えられている。

 きょうだいが多い、乳児期から保育園などで集団生活をした、乳児期に牧場で過ごした時間が長い。そうした子どもにアレルギーが少ないという海外の調査報告がある。これを専門的には「衛生仮説」と呼んでいる。衛生環境の改善や、感染の機会の減少がアレルギーの増加の原因だと考えられるということだ。

 生まれた時から動物のいる家庭で育った子どもは、アレルギーが少ないという説もある。私たちは、ぜんそくの子どもになるべく動物を避けるように指導してきた。だから、この報告は衝撃だった。生まれて間もない段階で、動物の雑菌などと接触することが、アレルギーの発症を抑えるには有利に働くのだろう。

 可能な限り、ちりやダニの少ない環境で子どもを育て、ぜんそくの発症を抑えようという試みは、逆にぜんそくを増やしてしまったという結果になる。これも、ダニを減らすよう気にしすぎて、「きれい過ぎる」環境になってしまったことが原因だろう。アレルギー予防のために、わざと汚い環境にすることは決してお薦めできないが、あまり「清潔」「無菌」にこだわりすぎるのも良くないといったところだろう。

 子どもが保育園などの集団生活を始めた当初は、頻繁に風邪を引くが、それも病原体に立ち向かう「免疫」を得る過程だ。その間を通じて、アレルギーになりにくくなる可能性も考えられている。だから、そう悲観することはない。ただ、ワクチンで予防できる病気は、予防しないと重症化したり後遺症が残ったりすることがあるので、集団生活を始める前にしっかり接種することが大切だ。


引用元:
「清潔」「無菌」こだわりすぎずに(朝日新聞)