親族や知人以外の第三者から提供された卵子による体外受精が国内で初めて行われた。代理出産を含め、第三者が関わる生殖補助医療はどこまで認められるのか。法整備がなされないまま実態が先行している。
親子関係の法的な位置づけや、生まれた子の「出自を知る権利」をどんな形で保障するか、など多くの課題がある。医療技術としては可能でも、明確な規制や実施条件を設けるべきだ。幅広い議論を踏まえた社会的な合意形成を急がなければならない。
病気で卵子がない女性を支援するNPOが仲介し、30代の患者2人が匿名の第三者から無償で提供を受けた。夫の精子と体外受精させた受精卵は、年内にも患者の子宮に移す。他にも8組の検討が進んでいるという。
不妊に悩む夫婦の気持ちは切実なものがある。ただ、卵子の提供者は排卵誘発剤の副作用や腹部に針を刺すことによる危険も伴う。健康被害の補償態勢が整わないまま進めるのは問題が大きい。
子どもへの告知と、出自を知る権利についても議論を深めなければならない。60年以上前から行われてきた第三者からの精子提供では、成人後に事実を知った本人たちから、遺伝上の親が分からず、自分の存在を肯定できなくなったといった声が相次ぐ。
告知するかどうかを当事者の判断に委ねるべきか。子どもが望んだとき、遺伝上の親の情報を開示する仕組みはどうあるべきか。いずれも熟議を要する。告知を受けた子どもを精神面で支える態勢も欠かせない。
第三者が関わる生殖医療については、厚生労働省の有識者会議が2003年に報告書を提出。代理出産を禁じる一方、卵子提供を一定の条件の下で認め、法整備の必要性を指摘した。けれども遅々として具体化していない。
自民党内で昨年、代理出産や卵子提供を条件付きで認める法案がまとまったが、異論が出て国会提出を見送った。親子関係の法整備を優先し、「産んだ女性が母親」などと定める民法特例法案の今国会提出を目指すものの、成立のめどは立っていない。
親子、家族とは何か、社会の意識が問われてもいる。血のつながりは親子関係の絶対的な前提ではない。養子縁組で子どもを迎える選択肢もある。それが進まない現状にも目を向け、幅広い視野で考える中から生殖医療の望ましいあり方を見定めていく必要がある。議論を身近な場に広げたい。
引用元:
生殖医療 社会的合意が欠かせない 信濃毎日新聞