女性の晩婚・晩産化に伴い、20〜30歳代での出生数は減り続けている。一方、15歳未満での出生数は減っていない―そんなことが、日本産婦人科医会の調べによって分かった。7月8日の記者懇談会では、同医会の安達知子医師(愛育病院副院長)らが、10代の妊娠がもたらす多くの問題を解説。その背景には性教育の不足があり、女性の健康を守るためには早い年齢からの適切な情報提供が必要と強調した。

日本人の性教育レベルは18カ国中17位
 「卵子は老化する」という情報が大きなニュースとなる日本。世界18カ国の妊娠希望者を対象に行われた妊娠・不妊の知識に関する国際意識調査では、男性16位、女性17位という"性教育後進国"ぶりだ。

 安達医師によると、ある地方の高校生が対象の調査で「月経は死ぬまで続く」との回答が3割に上ったり、女子大学生の「何歳で閉経するか?」の正答率が5割程度だったりと、性教育の不十分さを裏付けるデータは少なくないという。

 日本の性教育の不足は、妊娠適齢期や不妊に関する適切な情報提供の不足はもちろんのこと、10代の妊娠・出産が減らないことにも関連しているようだ。


10代妊娠「中絶率が高く、中期以降の中絶が多い」理由
 10代の妊娠には「本人たちに十分な性・健康の知識がないのだから、仕方がない」では済まない、多くの問題があるという。2013年度に報告された人口動態統計を見ると、15歳以下の人工妊娠中絶率(中絶数を出生数と中絶数の合計で割った数)は約85%に上る。


 さらに、中絶を行う妊娠週数は、20歳未満では他の年代に比べて早期(妊娠7週以前)の中絶が少なく、中期以降の中絶が多い。妊娠12週以降の中絶となると陣痛誘発など出産と同じで、「若い人ほど体に負担の大きい中絶手術を受けていると言える」(安達医師)。

 中期以降の中絶が多い背景には、「まさか自分が妊娠すると思わなかった」「つわりがなかった」「膣(ちつ)外射精でうまくいっていた」「月経中しか性交していなかった」「太ったと思っていた」など、月経や妊娠に関する誤った知識や思い込みがあると分析する。

虐待による死亡「生後0カ月・0日」が最多
 妊娠の発見がさらに遅くなれば、中絶は不可能となり自分の意思とは関係なく、出産を選ばざるを得なくなる。生まれた子供は経済的な理由などから、乳児院などに預けられることもある。また、出産した当事者は、学業の中断やパートナーとの関係悪化・離別など心身ともにダメージを受ける場合もあるようだ。

 さらに、"望まない妊娠"で生まれた子供には虐待のリスクがあると安達医師。児童虐待防止法が施行された2000年から現在まで、虐待の届け出は年間7万3,765件と4倍以上に増加しており、虐待による子供の死亡数も高い水準で推移している。

 厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の報告では、虐待によって死亡した子供は生後0カ月や生後0日が圧倒的に多い。その加害者の9割以上は実母で、年齢別では19歳以下が約3割と最も多く、望まない妊娠は約7割、10代で出産した経験がある母親が約4割を占めた。また、妊婦健診を受けていない例や、母子手帳を発行されていないケースは約9割に上っている。


教育関係者からは「寝た子を起こすな」の意見も
 安達医師は、望まない妊娠や出産、それによる子供への虐待を予防するためには、避妊や家族計画を若いときから考えられるような、性や健康に関する教育が重要と強調する。

 国際的にも、10代の妊娠・出産は中絶率が高いだけでなく、当事者の社会的・経済的な困窮や将来の見通しの不安につながるとして、各国の保健・公衆衛生当局が思春期の妊娠や出産を減らすための教育の普及に努めている。

 ところが、日本では複雑な状況になっている。というのも、社会保障審議会が「思春期からの性に関する正確な情報提供」を提言している一方、文部科学省の諮問機関である中央教育審議会は学習指導要領で、中学校での性教育のレベルに性交・性行為に関する具体的な内容や避妊、人工中絶や異常妊娠があること、若年・高齢妊娠の危険性、妊娠適齢期に関する情報を盛り込んでいない。

 学習指導要領の教育現場での運用は厳格で、「書かれていないことはできない」のが"常識"のようだ。ある関係者は「政府あるいは関係団体にも、若年妊娠の実態を踏まえた性と健康教育に関する学習指導要領の見直しを働きかけているが、反応は芳しくない」と話す。同医会が学校関係者に行ったアンケート調査からも、「寝た子を起こすな」「生徒はいつまでもピュア」などの意見が見られ、中学生からの性教育に対する温度差が施策の違いにもそのまま反映されている可能性がある。

 安達医師は「日本の社会で、15歳以下で妊娠・中絶または出産している女性が年間1,500人も出ていることは重く受け止めるべき。10代での望まない妊娠をゼロにするためにはどうすればいいかを、みんなが考える必要がある」とした。

自治体との連携で産婦人科医による中学校での「出前講座」も
 こうした実態に危機感を持ち、産婦人科医が中学校や高校へ「出前性教育講座」を行う取り組みも始まっている。静岡県では、県教育委員会が2002年から県の産婦人科医会に高校での性教育を委託。講師を担当する日本産婦人科医会の前田津紀夫・常務理事(前田産科婦人科医院院長)らの働きかけで、藤枝市や焼津市では中学校でも出前講座が行われるようになった。出張講座の具体的な内容は以下の通り。

1.分娩(ぶんべん)や命の誕生の尊さ
2.妊娠適齢期の話
3.望まない妊娠、人工妊娠中絶
4.避妊・緊急避妊
5.性感染症
6.性の持つ負の側面

 前田常務理事は「中学生の時期は、性に対する興味や性行動の個人差が大きい。講義内容には配慮が必要」としながらも「引き続き中学生の望まない妊娠、性感染症の予防のため、早い時期からの性教育の必要性を訴えていきたい」と抱負を述べた。

(あなたの健康百科編集部)



引用元:
少子化の一方、減らない15歳未満の出生数...何が問題? (あなたの健康百科)