今回は、治療のステップアップについてお話ししましょう。
我々の不妊診療科では、治療を行う際に負担の少ない治療から開始し、妊娠に至らない場合はだんだん、負担の重い治療を選択するようにしています。負担とは、主に体に痛みを与えることと、経済的に費用がかかることの二つを念頭に考えています。
最初の選択は体に痛みが少なく、費用もあまりかからない治療となります。もちろん、患者さんからいろいろお話を聞いて、また不妊の初期検査から負担のかかる治療を始めから選択する場合もあります。それは、患者さんにとって、妊娠するにはその治療法を最初から選択する必要があると判断したからです。
負担の軽い治療として、タイミング法があります。これは排卵日を特定して性交することです。この方法は不妊治療施設に来院する前にも何回か行っていることが多いと思います。それでも、もう一度排卵日を正確に予測し性交すると妊娠に至る場合があるので行います。
特に、子宮卵管造影検査で卵管の通過性が確認された方だと、妊娠率も高くなります。この理由ははっきりしませんが、いろいろな理由を考えています。その一つは、子宮卵管造影検査は卵管通過性の検査だけの意味ではなく、造影剤が卵管を通ることによって通過性をよくするのではと推測されています。
さて、タイミング法を行っても妊娠しない場合はステップアップしますが、妊娠できないケースが何回続いた場合に、次の方法に移ったらよいのでしょうか? これはとても悩むところです。
同じ治療法でも、次の治療周期に妊娠するということは常にあり得ます。よい卵子とよい精子が出会うチャンスはそれほど多くありませんが、治療回数を重ねることで、そのよいチャンスにめぐりあえる可能性は高くなります。
でも、目安として、35歳までの方でしたら6回ぐらいと考えます。36歳以上だといいチャンスが到来する確率は減るので、もっと多くの治療周期が必要となるのですが、これを待っていると年齢もさらに高齢化するので、むしろ目安の治療回数は少なめに考えています。だいたい3から6回の間と考えています。40歳を超えると3回までを目安としています。
タイミング法の次のステップとして、排卵誘発法を考えています。ふつうに排卵がある方でもステップアップのために、この方法を行うことがあります。すなわち、排卵誘発を行って複数個の卵子を排卵させます。
これによる利点は二つあります。一つは、よい卵子ができる確率自体はあまり変わらないものの、その治療周期において複数個の卵子が排卵されることで、周期あたりの少なくとも1個、よい卵子が存在する確率が上がるということです。
もう一つは、複数個の卵胞が発育することで、卵胞・黄体から作られるホルモンも血液中レベルで高くなり、胚が着床し発育する子宮内膜の環境への好影響につながる可能性があると考えられます。
欠点は、妊娠する児の数が複数になる可能性があることです。このため排卵誘発法の際にはせいぜい2から3個の卵胞発育に抑えたいところです。また、この卵胞発育刺激法を行う際には、人工授精を併用する場合もあります。精液所見がよい人は人工授精を行わなくてもよいのですが、より確実に精子を受精の場所に送り込むために、自然よりもより近い場所に精子を置いてくるわけです。
これも何回か治療を試み、妊娠しない場合は、ステップアップとして腹腔鏡検査か体外受精に移行します。


引用元:
《52》 治療のステップアップ(apital)