内戦で混乱が続いたアフリカ東部のウガンダで、日赤が出産前後の母子を支援する活動を続けている。現地の赤十字社と連携し、妊婦健診の受診を促し、出産時に最低限必要な衛生用品を詰め合わせた「ママバッグ」を二万個以上配布。清潔で安全なお産で、母親と赤ちゃんの命を守っている。 (稲熊美樹)


 「壊れた分娩(ぶんべん)台で赤ちゃんを産んでいて驚いた」。昨年三月、同国北部アムル県などを訪れた名古屋第二赤十字病院(名古屋市昭和区)看護師の山田則子さん(42)は、保健所(日本の医療機関に当たる)の設備の不備に目を丸くした。


 狭い部屋に五人の妊婦がおり、中には床に寝ている人も。救いだったのは、ママバッグに入っていたビニールシートを下に敷いて分娩していたこと。「お産を助けられる道具で良かったと思った」と振り返る。


 山田さんが現地に滞在したのは二〇一四年三月から一年間と、今年五月から一カ月半の計二回。首都カンパラのマンションに住み、同国赤十字社に通って物資調達の支援をしたり、車で七〜九時間かけて田舎に行き、すでに配ったママバッグがどのように使われているのか確認したりした。


 ママバッグには、コットンや滅菌済み手袋、せっけん、ビニールシート、清潔なタオルなど九品目が入れられている。


 このうち、かみそりと臍帯(さいたい)を結ぶひもは、へその緒をしばって血を止めるために使用。タオルは赤ちゃんの体をふいたり、寒いときには体を包むこともできる。軟こうは、赤ちゃんがクラミジアなどに感染するのを防ぐ。


 日本円で一セット千五百円。現地の農家の月収とほぼ同じ高価なものだ。山田さんは「アフリカの女性にとって出産は命がけ。ママバッグが安全に出産できる一助になれば」と話す。

◆妊産婦の死亡率減る


 ウガンダは、一九八〇年代から二十年以上続いた内戦の影響で、今も難民キャンプで暮らす人が多い。人口は、日赤がママバッグを配っている北部二県で約四十万人。同国の合計特殊出生率は六(日本は一・四二)を上回る。


 しかし妊産婦死亡率は日本の六十倍。死亡の主な原因は、出産時の出血による失血死や感染症、高血圧などの妊娠中毒症だ。こうした症状は、適切な医療処置が施されれば助かる可能性が高い。妊娠中毒症は妊婦健診で発見できる。


 現地ではこれまで、医療従事者ではない人がお産に携わってきた。日赤は二〇一〇年から、保健所での妊婦健診を四回以上受診した妊婦にママバッグを贈り、医師や看護師、助産師がかかわって出産する環境づくりをしてきた。


 医療従事者の助産師が付き添う出産は、一〇年には29%だったが、一二年には62%に上昇。人口十万人当たりの妊産婦死亡率は四百三十五人(一〇年)から三百六十人(一三年)に下がるなど、ママバッグの効果が劇的に表れているという。


引用元:
ママバッグ 内戦後ウガンダ お産の味方(東京新聞)