前回は里帰り出産する娘を迎える上での親の心構えや、支える際のポイントを聞きました。今回は親世代が子育てをした時代とは変わってしまった、育児の「常識」について伺います。【聞き手=編集部・鈴木敬子】

 −−母親世代が子育てをした30〜40年ほど前とは、多くの点で育児に関する考え方や方法が変わってきていますね。例えば、母乳よりも粉ミルクの方が栄養があると考えられていた時代もあったようです。

 母乳だけで栄養学的に問題がないだけではなく、赤ちゃんを守る免疫物質が含まれていることも分かっています。授乳の時に赤ちゃんと触れ合うことで、良い関係も築けます。昔はミルクに足りないものを果汁で追加しようと飲ませていました。今は、果汁を与えることに栄養学的には根拠がないことがわかっています。逆に果汁を与えるとおなかがいっぱいになって母乳やミルクを飲まなくなり、栄養不足になる可能性があると考えられています。お風呂上がりに白湯(さゆ)を飲ませる習慣もありましたが、これも必要ありません。のどが渇いた時も母乳やミルクでOKです。

「断乳」から「卒乳」へ
 −−母乳やミルクはいつまで与えてよいのでしょうか。

 離乳食の望ましい開始時期は5、6カ月ごろですが、少々遅れても、お母さんたちが食べているのを見て赤ちゃんが口をもぐもぐさせるなど、食べることへの関心を示すようになってからで大丈夫です。昔はこうしたサインを見せないうちから離乳食をあげていたため、母乳育児も中途半端になっていました。

 なお、「離乳の完了」とは、母乳やミルクを飲まなくなる状態ではなく、栄養の大部分が母乳またはミルク以外の食物からとれるようになった状態のことで、その時期は1歳から1歳半くらいです。人間の子供が母乳を飲まなくなるまでの「母乳育児期間」は2〜4歳ごろまでとされていて、離乳が完了しても母子が望む限り長く続けることは問題ありません。

 かつては1歳までに「断乳」しないと親離れができなくなるという考え方がありましたが、赤ちゃんの欲求を考慮せずに母乳をやめさせると、精神的なダメージになりえます。「お母さんから離された」という感覚を持ってしまい、かえって親離れができなくなることもあります。今はその子なりに満足した時に「卒乳」するという考え方に変わっています。赤ちゃんには一人一人個性があり、その子なりの発達や嗜好(しこう)、リズムに合わせていいのです。

 昔は「3時間間隔」と授乳の時間も決まっていましたが、今は飲みたいときに飲みたいだけ、というのが基本です。

 −−「抱き癖がつくから泣くたびに抱っこしてはいけない」と言われていたようですね。

 親子がいっぱい触れ合うというのが子育ての原点です。抱き癖がつくというのは根拠がありません。子供は自分のすべてを受け入れてくれる環境があるから、安心して外に行けるものです。欲求が満たされることで、将来的に気持ちも発達も安定するようだということが分かってきています。

あおむけでも頭の形は大丈夫
 −−頭の形を良くするために「うつぶせ寝」をさせていたようですが、効果はあるのですか。

 頭の形だけでなく、うつぶせ寝の方が呼吸がしやすくすやすや眠ると言われてきました。今はSIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクが高まるとして、あおむけに寝かせるようにと指導しています。頭の形に関しては、あおむけで寝ていると一時的には後頭部が平らな「絶壁」のようになることもあるかもしれませんが、赤ちゃんもずっと同じ姿勢で寝ているわけではありません。長い目でみたら心配する必要はありません。

 −−昔はよくベビーパウダーが使われました。

 あせも予防のために真っ白になるくらい付けていましたが、汗腺をふさいでしまったり、赤ちゃんの気道が刺激されてしまったりというケースもあり、あえて付ける意味はないようです。あせもを防ぐには、せっけんできれいに洗ってあげるだけで十分です。

 −−昔はおんぶでしたが、今は抱っこが主流です。なぜでしょうか。

 抱っこは赤ちゃんと目が合うから情操教育的にいいという話もありますが、医学的な根拠はありません。時代の流れで、欧米の子育てのスタイルが入ってきたためと考えられます。おんぶでもずっと目を合わせないわけではなく振り返ってあやすこともあるし、母子がぴったりとくっついているため、安心感があります。お母さんと子供が同じ方向を見るというのもいいことです。おんぶの良さも見直されてきています。

同じスプーンは虫歯や歯周病のリスク増
 −−昔は親がかみ砕いたものを食べさせたり、同じスプーンで食べさせたりしていたようですね。

 赤ちゃんの体内は、口の中も腸の中も生まれたばかりの時は無菌状態です。同じスプーンで食べさせたりすると、大人の歯周病や虫歯の菌がうつるリスクが指摘されています。娘さんは気をつけて別のスプーンを使って食べさせていたのに、両親が気づかずに自分のスプーンで食べさせてしまうと、娘さんもついつい「汚いからやめて!」のような言い方をしてしまいがちです。

こうした昔とは異なる常識について母娘それぞれがどう考えているか、事前に話し合っておくことが、衝突やあつれきを避けることにつながります。


引用元:
幸せな里帰り出産、育児を支えるために【後編】今どきの「常識」を知る (毎日新聞)