自分の卵巣に卵子はどれくらい残っているのだろう―。妊娠を望む女性にとって切実な疑問だ。その目安が分かる検査が不妊治療の現場に普及してきた。治療計画を立てるのに役立つとされるが、妊娠の成否を左右する卵子の「質」までは分からない。結果の解釈には注意が必要だ。



▽減る卵子
 不妊治療を始めて2年になる加藤真美さん(40)=仮名=は6月上旬、東京都内のクリニックで血液中の「AMH」と呼ばれるホルモンを測る検査を受けた。「最初のころに比べ、排卵誘発剤を使っても採れる卵子の数が少なくなってきた。自分の数値を知って今後に備えたい」という。
 AMHはアンチミューラリアンホルモンの頭文字。妊娠を目指す女性たちにはよく知られた検査で、加藤さんも知人に勧められた。
 卵巣の中には、成熟すると卵子になる、原始卵胞と呼ばれる「卵子のもと」がたくさんある。男性の精子が精巣で毎日新しくつくられるのと違い、女性は一生分の卵子を持って生まれてくる。AMHは発育する過程の卵胞から分泌される。
 原始卵胞の数は胎児期の約700万個がピークで、出生時には200万個、月経が始まる12〜13歳に30万〜40万個まで減る。その後も1日30〜40個ずつ少なくなり、加齢とともに卵子の質も低下、閉経のころには約千個になるといわれる。


 ▽あくまで目安
 AMHは卵巣内に残る卵胞数が多いほど分泌量が多く、卵胞の減少とともに減る。このため卵巣機能を推定できる検査と注目され、国内では4〜5年前から不妊治療施設を中心に広がり始めた。健康保険は適用外なので、費用は6千〜1万円以上と施設ごとに異なる。
 ただ、結果を受け止める際は気をつけたい点がある。AMHの値が示すのは卵子のいわば"在庫数"の目安。数が多ければ質の良い卵子が残っている確率も高いが、質は年齢の影響を大きく受けるため、数値の高さだけで安心するのは禁物。一方、個人差もあるので、低いからと落胆するのも早計だ。「あくまで目安なので、妊娠率と単純に結びつけて考えないで」と浅田レディースクリニック (名古屋市)の浅田義正院長は強調する。


 
▽将来のために
 AMHの値は病気のサインとして注目される場合もある。例えば数値が非常に高いとき、数多くの卵胞が未成熟のまま排卵できず、月経異常や不妊の原因となる「多のう胞性卵巣症候群」を疑う目安になる。若いのに極端に数値が低い場合は早期に閉経する可能性もあるという。
 国立成育医療研究センター (東京都)の斉藤英和・不妊診療科医長は「AMHの数値は診療計画を立てるのに欠かせない。低い人には、早めに妊娠に向けて取り組んだ方がいいとアドバイスしている」と話す。
 がん治療の現場でも、AMH検査の活用が広がってきた。卵巣は抗がん剤や放射線の影響を受けやすい。治療の内容によっては、がんが治っても排卵できなくなってしまうことがある。
 特に乳がんなどは30代から増え始めるため、治療で卵巣の機能が低下する前に、将来の妊娠に備えて対策を取るかどうかを判断する必要がある。その際に役立つのがAMHの測定だ。
 AMHが低ければ、治療による卵巣のダメージも大きいと予想されるため、受精卵の凍結や卵巣の組織保存などの選択肢が検討される。
 2010年に「がん・生殖医療外来」を開設した聖マリアンナ医大 (川崎市)の鈴木直教授(産婦人科)は「他のホルモン検査と併せAMH検査を活用することで、患者さんの将来を考える重要な指標が得られる」と話す。
(共同通信 佐分利幸恵)




引用元:
卵子の"在庫"調べる検査質は分からず、解釈慎重にがん治療で活用も(47NEWS‎)