仮死状態で生まれた新生児が脳性まひになるのを防ぐ「低体温療法」が広がっている。新生児の体温を低く保ってエネルギー消費を抑えることで、脳細胞を保護できる可能性がある。ただ出産後六時間以内に治療を始める必要があり、専門家は「お産の際は、緊急時に対応できる医療機関を事前に確認して」と呼び掛ける。


 赤ちゃんは「おぎゃー」と泣かなかった。顔は赤黒く、呼吸も分からないほど弱い。岐阜県の女性(31)が産んだばかりの長女を見て、立ち会っていた夫(32)は息をのんだ。


 予定日の一カ月前までは順調に育っていた。女性は検診を受けた日の夕方に突然出血し、午後九時ごろ、搬送先の自宅近くの産婦人科クリニックで出産。でも、脳の酸素や血流が不足する「低酸素性虚血性脳症」を起こしていた。胎児の胎盤が子宮から早く剥がれたのが原因だった。


 この脳症は千人に数人の割合で起きる。重症だと死亡率が高く、命を取り留めても脳性まひやてんかんなどの重い後遺症が出る。長女は重症に近い状態で救急搬送先の中核病院でも対応できず、低体温療法ができる岐阜県総合医療センター(岐阜市)に再搬送された。


 低体温療法は、新生児をマットに包むなどして三七度の体温(標準)を三四度ほどに冷やす。エネルギー消費や有害物質の活性化を抑え、脳を保護する。低体温に保つのは七十二時間。妊娠期間や、出生時の体重、生まれてから六時間以内であることなどの基準を満たした新生児が対象だ。従来の薬物療法に比べ、死亡や脳性まひのリスクを減らせる。


 長女の治療を始めたのは出産から五時間後。迅速な連携により、長女は一カ月後に無事退院できた。後遺症もなく、二年たった今では元気に家中を走り回る。


 「まさか、自分の子が仮死状態で生まれてくるなんて思ってもいなかった。低体温療法で後遺症もなく育ってうれしい」。女性は笑顔で話す。


 岐阜県総合医療センターは二〇一一年四月から昨年末までに十九人(うち重症四人)に実施。このうち九人(同一人)が後遺症なく育ち、七人は脳性まひに、一人は転院先で死亡した。新生児内科の山本裕医師は「すべてとはいかないが、救える子は確実に増えている」と話す。


 もともと、一部の医療機関が二〇〇〇年ごろから採り入れていたが、複数の学会でつくる日本蘇生協議会が一〇年に標準治療としてガイドラインを作成して以降に実施医療機関が増加。厚生労働省研究班が一三年、周産期医療の中核となっている全国約二百四十施設を調べたところ、三年前の一・五倍の百三十五施設で実施。全都道府県に一施設以上あった。


 ただ、体温を下げることで血圧や心拍数が過度に抑制され体にダメージを与えるリスクのほか、免疫力の低下、皮膚の損傷などの深刻な合併症が起きることがある。


 ガイドラインを作成した埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)の田村正徳教授は「新生児の低酸素性虚血性脳症はだれにも起こり得るし、出産直前まで分からない」と指摘。産婦人科クリニックと周産期の中核的な病院とのネットワークがすでにあることから、「妊婦とその家族は、もしものときはどこで治療を受けられるのかを事前に確認しておくと良い」と話す。

(山本真嗣)


引用元:
仮死状態の新生児、脳性まひ防ぐ 「低体温療法」に注目(中日新聞)