いままでは、妊娠や不妊治療に関わる一般論について多く話してきました。今回からは、当センターの不妊治療について、特に力を入れていることに関してお話ししたいと思います。
年齢が高めで、なかなか妊娠されない方はぜひ早めに受診してください。不妊治療を行う施設でもそれぞれ、その施設特有の方針というものがあります。高齢を理由に治療に年齢制限をかけている治療施設もあります。
当センター不妊診療科では、治療される方の年齢制限はしない方針であることを強調しておきたいと思います。確かに、私は、一般の皆さんにお話しする機会をいただくと、年齢が高くなると妊娠しにくくなること、また、妊娠した後でも妊娠中や分娩時のリスクが増すこと、出産児のリスクが増えること、高齢での子育てが大変になることなどをお話ししています。だからと言って、当センターは妊娠を希望し治療のために訪れる方の年齢を制限はしません。妊娠を希望する方であれば、その可能性が少しでもあれば、個々の方の現在の体の状態を検査で評価し可能な治療を行います。
当センターでは、46歳の方が体外受精で妊娠し、47歳で出産した人がおります。この方は、当センターでの体外受精で妊娠出産された方のうちで、最高年齢の方です。体外受精の治療で妊娠したが、残念ながら流産になってしまった方の最高年齢は52歳です。ですので、よく時間をかけて体の状況を検査し適切な治療を行えば妊娠出産できる方がいるのです。
日本の人口動態を調べてみると、不妊治療がなかった昔の日本でも50歳以上で出産した方も多数おりました。高齢だと出産できる方の割合は減りますが、妊娠する能力には個人差が大きく、50歳以上でも妊娠出産できる方がいるということです。





グラフは、日本の人口動態と日本産科婦人科学会がまとめている生殖補助医療で出生した児のデータから推計したものです。各年齢群の母親から生まれた児で、その妊娠が生殖補助医療であったと推定される児の割合です。
母親の年齢群が若いと、体外受精などの生殖補助医療に頼らず出産に至る方の割合が高いのですが、年齢が高くなると生殖補助医療に頼って出産する方の割合が増えています。ですので、確かに高齢になると、生殖補助医療でも妊娠出産する可能性は低くなりますが、それでもこの率から考えると、体外受精などの不妊治療は妊娠出産に効果があるということになります。
しかし、先にも述べましたように、高齢だと妊娠しにくくなるばかりでなく、妊娠出産に伴うリスクが上昇するので、妊娠前からいろいろ体の健康に気をつけなければなりません。当センターには母性内科があり、妊娠前から体の管理治療を行いながら、不妊治療を行い、妊娠中や分娩後まで、健康を管理し、妊娠中や分娩時のリスクを減らしています。
当センター不妊診療科では不妊治療に年齢制限は設けませんが、不妊治療中からいろいろなリスクを軽減するような健康管理体制を構築し、患者に妊娠していただくだけでなく、妊娠後の安全を考えて、体全身の健康を管理しながら治療しています。


引用元:
国立成育医療研究センターの不妊治療の特徴@(朝日新聞‎)