「不妊症」の定義が変わる ―― 。先月末、そんなニュースが話題を集めました。これまで「希望しても“2年以上”妊娠できない状態」とされていたのを、“1年以上”と短縮する案を日本産婦人科学会がまとめたというのです。なぜ、短縮することになったのか、不妊治療の何が変わるのか? 分かりやすく解説します。

「1年以上」が世界的な流れ

 健康な男女が避妊せずに性交し続ければ、そのうち自然に妊娠が起きることがほとんどです。それなのに、ある一定の期間がたっても妊娠が起きないとすれば、何らかの原因(病気など)があると考えられます。そこで気になるのは「じゃあ、どのくらい妊娠しなかったら不妊症なの? 」ということです。

 従来、日本ではその期間を「1年から3年までの諸説あり、2年というのが一般的である」としてきました(産科婦人科用語集)。しかし海外に目を向けると、例えば世界保健機構(WHO)は「12か月以上」としており、また、アメリカ生殖医学会(ASRM)も患者向けガイドの中で「1年以上」としています。ASRMはさらに「もしあなたが35歳以上であるならば、6か月以上避妊せずに性交しても妊娠が起きなければ医学的な検査を始めるべきだ」と推奨しています。

 いま、日本を含めた先進国では、初めて結婚する年齢が高くなる傾向があります。例えば日本では、最新のデータ(平成26年人口動態統計)で男性が31.1歳、女性が29.4歳と過去最高を更新し、20年前と比べてそれぞれ2.6歳、3.2歳高くなりました。

 カップルの年齢が高ければ高いほど妊娠は起きにくくなり、また、不妊治療も効果が上がりにくくなります。初婚年齢が高くなれば、多くの人が妊娠を考える時期も以前より遅くなっていると考えられますので「早めに医学的な検査を始めたほうが良い」というのが世界的な流れになっているのです。

「早めに検査・治療を」のメッセージ

 では、私たちの受ける治療には何か変化があるのでしょうか? 結論からいえば、治療そのものにはほとんど変化はありません。大事なのは、不妊について専門家に相談するハードルが下がったということです。定義が2年のままですと、場合によっては「まだ妊娠を考えて1年だし、もう少し様子を見ましょうか」ということになりかねません。お医者さんたちの共通認識として「1年たったら不妊」ということになっていれば、治療や検査がより早く始めやすくなります。

 また今回の変更は、専門学会からの「不妊治療について早めに検討することが大切ですよ」というメッセージとも捉えることができます。

 これは言うまでもないことですが、子どもを産むか産まないか、いつ産むのかという判断は当事者である男女が自らの意思で行うことです。ただカップルの間で妊娠や不妊治療に関する基礎知識が不足していたり、十分な話し合いが行われていなかったりすれば、適切な判断を下すのが難しくなります。「まだ早い」と思っていたとしても、もし将来的に妊娠・出産を希望しているのならば、今回のニュースをきっかけに少し話し合いの時間をとったり、基礎的な情報を調べてみたりすることが望まれるのかもしれません。
不妊症の基礎知識については、一般社団法人・日本生殖医学会がQ&A形式のわかりやすい資料を公開しています。(http://www.jsrm.or.jp/public/)

 また「産婦人科はちょっと敷居が高い……」と感じられる人向けには、国や自治体が相談窓口を開いています。全国に61か所(平成24年度)あり、専門医や不妊治療を受けた経験者からのアドバイスを受けられるところもあります。一部ではメールでの相談にも応じています。

 どのようなサービスが受けられるかは窓口によって変わってきますので、次の厚労省のページを参考に、お近くの窓口を探してみてください(厚労省サイト(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/boshi-hoken03/))。

 先述したアメリカ生殖医学会(ASRM)のガイドには、このような記述があります。

「あなたやあなたのパートナーがこれまで子どもを得られなかったとしても、あなたはひとりぼっちではありません。少なくとも7組に1組のカップルが、妊娠に問題を抱えています。あせりや嫉妬、怒りやストレスを感じるのは普通のことです。でももし、あなたがどんな治療を受けられるかを調べてみれば、不妊治療がかつてないほど進歩していることがわかるでしょう。専門家のサポートを求めた多くの人が、妊娠を達成しているのです」


引用元:
「2年」から「1年」へ……不妊症の定義はなぜ変わる?