少子化が社会問題となっているなか、仕事と育児を両立させたいという女性も少なくありません。しかし、妊娠や出産をきっかけに嫌がらせを受けたり、退職などを迫られることをマタニティー・ハラスメント(マタハラ)といいます。
そうした動きから彼女たちを守るために育児・介護休業法などが整備されています。ところが、その法律を逆手に取り、わがままな主張をして、会社と争う女性も現れました。これを“逆マタハラ”と呼びますが、価値観の多様化の影響でしょうか、いままでなかったことが職場で次々と起きています。
私の事務所に、こんな相談が持ち込まれました。ある食品加工会社に新卒で入社後、食品衛生管理者として9年間務めた女性が、結婚して妊娠し「1年ほど育児休業を取ります」と申し出ました。
そこで、会社としては別の有資格者を採用する。彼女が復職する際には事務職に就いてもらうという条件を出しました。女性も、その提案を受け入れ、後任の採用面接にも立ち会い、復職後に働くことになる事務局に挨拶して休みに入ったのです。
1年後、復帰予定日に会社に電話があり「やはり食品衛生管理者として復帰させてください。違う職種への配置転換は違法ではありませんか? 」といいだし、「それを呑んでくれないなら、県の労働局に訴えます」と強硬な姿勢を示しました。
会社側は「あなたは1年前に納得していたのだから」と説得を試みても聞き入れず、ついに「それなら解雇してください」と開き直る始末。調停ということで、労働局雇用均等室の職員も加わりましたが、最終的には自己退職になりました。
なぜこのような事態が起こるのかというと、育児休業を取った女性は、職場復帰後も同じようなイメージで仕事ができると思いがちだからです。社会人としての根っこの部分が未成熟で、周囲と軋轢を生じやすい人が少なくないのも事実です。
.
前へ1/2次へ
「マタハラ」を盾に仕事しない女性をどう叱るか
逆マタハラを防止する就業規則はこうつくる
「マタハラ」を盾に仕事しない女性をどう叱るか
■就業規則で事前予防を図る
では、そんな女性たちに、どう対処していけばいいのか――。絶対的なNGワードは「子供がいるからって甘えないでほしい! 」です。怒りにまかせて感情的な言葉を発してしまえば、彼女は「だったら戦ってやる。私が正しいことをわからせてやる」となって、そこから底なし沼にはまっていきます。
正しい指導のポイントとしては、自分の代わりに仕事をしてくれている人の存在を認識させます。
「お子さんがいるのに仕事をするのは大変ですね。でも、会社はチームワークで業務をこなしているのですよ」と、子供の発熱などで抜けたとき、その仕事を肩代わりしてくれた人への感謝の念を教えることが重要です。
ただ、あてつけがましくいうと逆効果になるので「Aさんも急ぎの注文を抱えているけれど、あなたが負担にならないように引き受けてくれるみたいよ。だから、何かの機会にお礼だけは言ってね」と伝えます。
あるいは、仕事の渡し方に一工夫してみてはどうでしょうか。たとえば育児を理由に早退を繰り返す人には、「この仕事は丁寧さが必要だから、ぜひあなたにお願いしたいの」とか「先方があなたをご指名なの」といえば悪い気はしないはずですし、モチベーションも向上するでしょう。
もし、あなたが経営者ならば、事前予防策として何より大切なのが、関連法規の知識を得て、それを強い味方にすることです。前述の育児・介護休業法はもとより、労働基準法も押さえてください。そのうえで、きちんと就業規則を定めておきます。その中に盛り込んでおくべきなのは、復職後の職種、勤務時間、休業期間中の給与、加えて、会社の教育・バックアップ体制などです。
今回の例のような、いわゆる“人事リスク”は、今後も増えると考えておく必要があります。その意味で、できれば普段から、社員にはやさしい会社ということを打ち出しておくことが、リスクを未然に防ぐことにつながります。
----------
特定社会保険労務士
田北 百樹子
札幌市生まれ。1996年に田北社会保険労務士事務所を開業。就業規則の作成、人事考課制度の導入など幅広い対応を行う。著書に『シュガー社員が会社を溶かす』など。
----------
.
特定社会保険労務士 田北百樹子 構成=岡村繁雄 撮影=本田匡
引用元:
「マタハラ」を盾に仕事しない女性をどう叱るか(プレジデント)