【シドニー】医師や、体外受精(IVF)を受けた患者たちが、何千マイルも離れた研究所にある受精卵の成長を監視するための新しいスマートフォン向けアプリケーションが登場するかもしれない。

 シドニーに本拠を置くジェネアが開発中のこの技術は、世界のIVF業界でいかにイノベーションが加速しているかを示す好例だ。一部のアナリストはこの業界が2020年までに140億米ドル(約1兆7000億円)にまで成長するとみている。この技術は受精卵(胚)の質を高め、移植成功の公算を大きくするような有効なアプローチを可能にするかもしれない。

 ドイツの製薬・化学大手メルクは、ジェネアの製品セットを、IVFを行う世界中のクリニックに販売する計画だと述べた。この製品セットにはGaviが含まれる。Gaviは、後日使用するヒトの受精卵や胚を急速凍結する世界初の機械で、温度を下げる凍結プロセスでの人為的ミスを防げるという。

 このセットにはまたGeriも含まれる。Geriは受精卵用のインキュベーターで、タイムラプス(インターバル撮影)画像を活用する。これは、胚に成長しているかどうかを検査するために受精卵を取り出すという潜在的に危険な手順を省くのが狙いだ。メルクとジェネアの契約には、新技術開発への資金提供も含まれる。この中には、Geriからスマートフォンに画像をライブ配信し、医師、そして患者までが、受精卵を24時間監視できるようにする技術も含まれる。

 ジェネア研究開発部門のゼネラルマネジャーを務めるキム・ギリアム氏は「IVFはこれまでブラックボックスのようなもので、週末に電話がかかってくるまで、受精卵がどのように育っているかが分からなかった」と話し、「この段階で、実際の状況をいくらか感じ取ることができるのは非常にユニークだ。人々がそういったチャンスを制限されないようにすべきだ」と述べた。

 生殖補助医療業界は、1978年に世界初のIVFによる子どもが誕生して以降、急速に成長している。国際不妊学会(IFFS)によると、世界には現在、約4000の不妊治療クリニックがあり、年間約150万件の治療が行われている。欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)によると、毎年35万人の赤ちゃんがIVFで誕生していると推計されるという。

 ESHREは、世界のカップルのうち6組に1組が何らかの不妊の問題に悩んでいると推測している。このため、業界が医薬品、技術、臨床サービスで上げる収入は、昨年の推計90億ドルから急激に増えると予想されている。親になりたい人々にとって、IVFは高価な場合もある。ESHREによれば、1回の不妊治療サイクルの費用が1万ドルを超えることも多い。また、通常5件の治療のうち4件は出産にまで至らない。

 IVFを行う女性は、約2週間にわたって毎日、排卵誘発剤とホルモンの投与を受ける。その後、卵を採取し、父親の精子と受精させる。その後の5日間はインキュベーションプロセスだ。そこでは受精卵のうち少なくとも1つが母親の子宮に移植できるほどの健康な胚に育つことが期待される。

 2年前にIVFで息子を授かったシドニー在住のジョー・マスターズさん(41)は「5日間は待つには長かった。クリニックとそれほど頻繁に連絡を取るわけでもないので、どうなっているのかと不安に思いながら5日間を過ごすことになる」と話した。Geriのような新システムがあれば、親たちは自分たちの持つスマホの画面上で、胚の細胞分裂を1日に何回となく見守ることができるだろう。


引用元:
受精卵の成長を監視できるアプリ、開発中(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版)