妊娠中に抗うつ薬が処方されることがあります。妊娠中の服薬は心配になるものですが、ノルウェーなどの研究チームが妊娠中の早い時期に抗うつ薬を飲んだ人の子どもの情報を調べ、抗うつ薬のうちSSRIという種類のもの、またはベンラファキシン(SNRI)という抗うつ薬を飲んでいても、子どもの先天性心疾患に「実質的な増加は見られなかった」と報告しました。


◆北欧5か国230万人のデータベースを参照

研究チームは、デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデンの5か国で集められた健康情報のデータベースから、1996年から2010年の間の期間に得られた、約230万人の新生児とその母についての情報を取り出して、母の薬剤使用と子どもの出生時の異常について統計解析しました。

また、このうち2,288人の新生児の情報を使って、兄弟姉妹で一方が妊娠中にSSRIまたはベンラファキシン(SNRI)の使用があり、他方はない場合の比較を行いました。

兄弟姉妹は遺伝的要因や母の健康状態が共通している場合が多いため、兄弟姉妹間の比較は、他人同士の比較よりも、薬剤以外の要素による影響が少ないと考えられます。たとえば全体での比較よりも兄弟姉妹間の比較で薬剤の影響が小さいように見えた場合、全体での比較で薬剤の影響のように見えたものの中に、実は薬剤以外の要素が働いていた可能性が考えられます。

双子などの「多胎妊娠」で産まれた子どもは、対象から除きました。



◆一部の異常に関連あり、ただし兄弟姉妹間では関連がなくなる

解析の結果は次のようなものでした。


妊娠早期にSSRIに曝露した36,772人の新生児のうち3.7%(1,357人)、曝露しなかった2,266,875人のうち3.1%に出生異常があり、共変量を調整したオッズ比が1.13(95%信頼区間1.06-1.20)となった。兄弟姉妹間の比較による分析では、調整オッズ比は1.06(0.91-1.24)だった。

つまり、母が妊娠早期にSSRIを使っていた場合、そうでない場合に比べて子どもに出生時の異常があった割合が多いという結果が出ましたが、兄弟姉妹間で比較すると、この違いは統計的に有意ではありませんでした。

まとめると、妊娠早期に薬剤を使ったかどうかによって、子どもの出生時の異常は、
•全体としては:使った場合のほうが多い
•同じ母が、あるときは薬剤を使い、別のときは使わなかった場合:差がない

という結果でした。

この結果に対して、研究チームは「先天性心疾患全体の頻度に実質的な増加は見られなかった」と述べています。特に、統計的に有意な関連が見られた異常の一部について、兄弟姉妹間の比較で関連がなくなることは「これらの薬剤に催奇形性があるという考えに逆らう」としています。

仮に、未知の要因が「薬剤の使用」と「先天性心疾患」の両方の原因になっていたと考えると、本当は薬剤が先天性心疾患を増やしていなかったとしても、薬剤と先天性心疾患に関連が現れることは想像できます。もしそうだとすれば、未知の要因が比較的入り込みにくい兄弟姉妹間の比較で関連がなく、全体での比較では関連が現れる可能性もありえることになります。

全体としては、オッズ比1.13というわずかな幅ではあっても、統計的に有意な差が出ています。この結果を「実質的な増加は見られなかった」と解釈する根拠にあたるのが上の説明です。より明確な根拠とするためには、特定の薬剤を使うかどうか(ほかの治療法で代替するかどうか)をランダムに振り分ける介入研究が待たれます。

ここで示された結果には、どんな要因が働いていたのでしょうか?


引用元:
妊娠中の抗うつ薬のリスクは? 北欧の研究、服薬後の出産4万例から(MEDLEY)