卵子や精子の凍結保存により、近年、がん患者にも子どもを授かる確率が高くなっている。がん患者の妊孕性(にんようせい)を保持するうえで、課題となることは何か。NPO法人「日本がん・生殖医療研究会」理事長でもある聖マリアンナ医科大学病院産婦人科診療部長の鈴木直医師に聞いた。

 がん医療も生殖医療も、ここ10年ほどで飛躍的に進歩しました。海外では若年がん患者の卵巣組織凍結が一般的な技術となり始め、欧州では約4千人が凍結し、すでに40人以上の子どもが誕生しています。卵巣組織凍結は、卵子のもとになる原始卵胞をより多く保存できるだけでなく、思春期以前の小児がん患者も対象となる意味で画期的です。さらに、がん治療開始までに時間の猶予がない場合でも、月経周期に関係なく採取できます。

 しかし白血病や卵巣がんなどは、凍結した卵巣組織の中にがん細胞が残っている可能性が否定できず、組織を体内に戻すと再発の危険があるため、この方法は使えません。がん患者の生殖医療に携わる産婦人科医は、がん治療に関する最新の知識をもって、がん医療の主治医と密に連携する必要があります。

一方でがん治療の医師は、抗がん剤が生殖器に与える影響はもちろん、卵子の老化など生殖に関する情報に関しても熟知している必要があります。30代女性患者が増加している乳がんの現場で、「治療が終わってからでも妊娠は間に合う」と考える医師もいますが、治療の過程で40代に突入してしまうと妊娠の確率は急激に下がります。

 もっとも重要なことは、何よりも患者の命を救うこと。次に、患者が「赤ちゃんを将来抱っこできる」可能性を事前に検討することです。この2点を十分に理解しなければ、技術革新の恩恵を得ることはできません。どんなに患者さんが望んでも「がん治療が優先で、子どもはあきらめてください」と伝えなくてはいけないケースもあります。それを支えられる看護師や臨床心理士の養成も急務であり、医療従事者全体で患者を支える必要性があります。2012年11月に「日本がん・生殖医療研究会」を立ち上げました。全国のがん治療の医師たちと連携した結果、私の元にも遠方からの患者さんが増えました。しかし各地域で完結できるがん・生殖医療の連携システムが、全国各地に作られることこそが必要です。



引用元:
ここ10年で進歩 がん患者が子どもを授かるには…(dot.)