不妊に悩む夫婦に、特別養子縁組や里親制度の情報を提供する不妊治療クリニックがある。初診時に冊子を配布したり、特別養子縁組に関する民間団体の説明会を院内で開いたり。治療一辺倒になりがちな夫婦に別の選択肢も知ってもらい、後悔のない人生を歩んでほしいという関係者の思いが取り組みの原点だ


▽「次」があれば
 松江市にある内田クリニック では、初診の夫婦全員に冊子「ファミリー・aim・パスポート」を配布している。不妊治療がうまくいかない時の心理状態や、気持ちを整理するためのアドバイスを記載。さらに「治療も2人で決めた。治療以外の選択肢も2人で選ぶ!」との見出しで特別養子縁組や里親制度を紹介し、乳児院や児童相談所の連絡先を記している。


作成したのは同クリニックのカウンセラーで、立命館大客員研究員の荒木晃子さんら。荒木さんは治療を長く続けても妊娠がかなわない夫婦とカウンセリング室で向き合い、当事者が治療に見切りをつける難しさを感じてきた。「選択肢は他にもあることを頭に入れ、夫婦で話し合うことが大切」と指摘する。
 不妊症看護認定看護師の永島百合子さんは、2012年に患者ら13人へのインタビュー調査を実施。ほぼ半数が「里親や養子縁組の選択肢も将来的には考える」としたが、具体的な情報は持っていなかった。
 それまで待合室に置いていたファミリー・aim・パスポートを初診時に全員に渡すようになったのは13年5月。すぐには必要でなくても、目を通しておいてほしいと感じたからだ。
 関係機関への橋渡し役になれるよう、児童相談所などとの勉強会も開くようになった。
 妊娠が難しい患者に、本人の希望とはいえ治療を続けることにジレンマを感じるという内田昭弘院長は「治療して駄目だった時にどうするか。『次』があると分かっていれば、夫婦の判断も違ってくる」と語る。


▽小さな掲示

「生まれてくる子どもの命を、そして産む人の心と体を守りたい。みなさんがこれからの人生を歩んでいく上で、どうして子どもが欲しいと思うのか、そこに夫婦でよく向き合ってほしい」
 今年3月中旬、栃木県下野市の中央クリニック で開かれた一般社団法人「命をつなぐゆりかご 」の説明会。望まない妊娠などで親が育てられない赤ちゃんを、親になりたい夫婦に橋渡ししてきた大羽賀秀夫代表理事の話に、7組の夫婦が真剣な表情で聞き入った。
 中央クリニックでの説明会は年3回。15年ほど前から続く。
 副院長で、看護師長を務める浜崎京子さんは「子どもを授かることができない夫婦にとって、不妊治療と並んで、特別養子縁組という選択肢が最初からあってもいい」と話す。
 院内には「養子のことで相談したい方は浜崎まで」と小さな掲示も。
 「不妊治療のために来ているのだから、それ以外の話は聞きたくないという人もいれば、耳を傾けてもいいという人もいる。目立たない掲示でもアンテナを立てている人は見つけてくれる」
 戸籍上、実子と同じ扱いとなる特別養子縁組の件数は12年が339件、13年474件、14年は速報値で513件と増加している。
 自身も特別養子縁組で親になったという大羽賀代表は、説明会で熱く語りかけた。
 「私たちはうその親ではない、本当の親なんです。子どもの全てを受け入れ、愛していくうちに、みなさんの子どもになっていく」


引用元:
養子の選択肢、情報提供(47NEWS‎)