米シリコンバレーで話題となった、「Color Genomics」社の新たな遺伝学的検査サービス。乳がんと卵巣がんの発症リスクがわかる、BRCA1およびBRCA2を含む19の遺伝子を調べる検査が約3万円で受けられるというものです。同社チームは非常に学際的で、多彩な投資家の期待を集めて1500万ドルの調達にも成功しました。果たして、本連載でも紹介した23andMeなどこれまでの遺伝学的検査サービスと何が違うのでしょうか?

 2015年4月21日、米シリコンバレーから遺伝学的検査に関する衝撃的なニュースが流れました。非常に安価な、医師が関与する遺伝学的検査が始まるというのです。

 このサービスを行う会社は「Color Genomics」といいます。同社には、学際的なチームが参画しており、コンピュータサイエンス、分散システム、機械学習、製品設計、遺伝学、およびGoogle、Twitter、MIT(マサチューセッツ工科大学:Massachusetts Institute of Technology)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)、カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)、スタンフォード大学(Stanford University)の専門家で構成されています。

https://getcolor.com/

 フォーブス誌によると、「Color Genomics」の最高経営責任者(CEO)のエラッド•ギル(Elad Gil)氏は、MITで生物学の博士号を取得し、癌抑制遺伝子PTENの研究に取り組みました。ところがギル氏はその後IT業界で働くことを決心し、Googleに転職しました。ギル氏は、「IT業界には将来性があり、生物学を大きく変えようとしている」と語ります。

http://www.forbes.com/sites/matthewherper/2015/04/21/start-up-pledges-to-cut-cost-of-breast-cancer-genetic-testing-from-4000-to-249/

 共同創設者兼社長のオスマン・ララキ(Othman Laraki)氏は、GoogleとTwitterの元開発者です。コンピュータ科学と経営の学位を、スタンフォード大学とMITで取得しています。フォーチュン誌によると、ララキ氏はBRCA遺伝子変異の保因者です。ララキ氏の母親もBRCA遺伝子変異の保因者であり、家族の複数が乳がんと診断されています。ララキ氏は、「私は永遠にBRCA遺伝子に束縛される」と語っています。

http://mitgsw.org/2014/speaker-lineup/othman-laraki/

http://fortune.com/2015/04/21/color-genomics-cancer-test/

 「Color Genomics」は、以下のベンチャーキャピタリストや著名人から1500万ドルを調達しました。

 まさに錚々たるメンバーです。コースラ・ベンチャーズ(Khosla Ventures)、Formation8、アップル社の共同設立者スティーブ·ジョブズ氏の妻ローレン·パウエル氏、シスコの最高技術責任者パドマスリー・ウォリアー氏、Twitterの役員ケイティ・スタントン氏、EventBrite共同創設者ジュリア・ハーツ氏、Yahoo共同創設者ジェリー·ヤン氏、PayPalの共同創設者マックス・レヴチン氏、Dropbox共同創設者ドリュー・ヒューストン氏、Box共同創設者アーロン·レビ氏…

 このように「Color Genomics」は、科学技術とビジネスの専門家が結束した、まさに夢のようなチームですが、医療の専門家はどのように関与しているのでしょうか?

「Color Genomics」が提供するのは、シリコンバレーの消費者直結型(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査サービスの老舗である「23andMe」と同じように、オンラインで遺伝子検査のキットを購入し、唾液を自分で採取して返送するだけという手軽なシステムです。

 ただし「23andMe」は本連載でも述べたとおり、2013年11月22日に米国FDA(食品医薬品局)から遺伝子検査サービスの中止命令を受けています。理由は、1)非常に重要な情報をカウンセリングなしに消費者に提供する、2)診断精度への疑問などの問題が認められたためです。そして、2013年12月5日、同社のサービスは中止となりました。今年の初め、希少遺伝疾患のブルーム症候群に限って遺伝子検査サービスは承認されましたが、他の疾患に関する遺伝子検査サービスはまだ承認されていません。

http://time.com/3716133/fda-genetic-screeing-test-bloom-syndrome/

 そこで、「Color Genomics」は、検査に医師を介在させることで「23andMe」の問題点を克服しました。

1) 非常に重要な情報をカウンセリングなしに消費者に提供する:「Color Genomics」は、検査の依頼と結果の説明に医師が関与します。検査を依頼するには、かかりつけの医師か、「Color Genomics」の医師に依頼する必要があります。もし消費者がウェブサイトで検査の依頼をすれば、「Color Genomics」の医師に結果が送られ、医師が結果を評価します。消費者は、結果を受け取った後、「Color Genomics」の認定遺伝カウンセラーと連絡をとることもできます。そして結果に基づいて、がんの発症の予防の計画を立てます。

2) 診断精度への疑問:「Color Genomics」の遺伝子検査は、すべての臨床検査に適用されている連邦規制の基準の下で行われます。また、カリフォルニア州で、検査室の質を保証するためのCLIA(臨床検査改善修正法案、Clinical Laboratory Improvement Amendments)の認定を受けています。

 「23andMe」は、254種類の疾病リスク予測、自分のルーツ(祖先・親戚探し)を判定するための遺伝子検査でしたが、「Color Genomics」は、乳がんと卵巣がんのリスクを知るために、BRCA1およびBRCA2を含む19の遺伝子(ATM、BARD1、BRIP1、CDH1、CHEK2、EPCAM、MLH1、MSH2、MSH6、NBN、PALB2、PMS2、PTEN、RAD51C、RAD51D、STK11、TP53)を分析します。「Color Genomics」は、ペンシルバニア大学とカリフォルニア大学サンフランシスコ校と医療従事者と連携し、BRCA1遺伝子を発見したワシントン大学のメアリー·クレア·キング教授を含めて、遺伝学の専門家らの共同研究者の協力も得ています。

従来1500〜4000ドルした検査が
なんと249ドル(約3万円)で受けられるように! さて、DTC遺伝子検査サービスに対して、新型出生前診断や、BRCA1とBRCA2など将来の発症可能性を検査する発症前診断、遺伝病の保因者であるかを調べる保因者診断などは、病院・診療所で行われる“医療における遺伝学的検査”です。これらの検査は、遺伝子の特許の問題で高価なため、多くの米国人は受けることができませんでした。米国では、BRCA1とBRCA2遺伝子の検査は1500ドル〜4000ドル(1ドル=120円で換算すると、約18万〜48万円)かかりました。日本でも、その費用は約20万〜30万円と非常に高価です。ところが「Color Genomics」の検査にかかる費用は、249ドル(約3万円)です。

 連載第2回と第3回の記事のように、米国では2013年の米最高裁の「自然に存在する遺伝子は特許対象とはならない」という判決後、特許の拘束が緩くなりました。従来の遺伝子特許による遺伝子検査の独占が解禁されて、「Color Genomics」のような新たな遺伝子検査のビジネスモデルが生まれたのです。

これまで、乳がんや卵巣がんのリスク遺伝子であるBRCA1とBRCA2は、ミリアド社が独占していました。ブルームバーグ誌によると、2014年のミリアド社の売り上げの3分の2にあたる7.78億ドルは、BRCA検査による収益でした。ついにミリアド社の独占市場が開放され、競合企業が参入できるようになったのです。

 「Color Genomics」の目的は、健康な人も含めて、非常に安価な、医師が関与する遺伝子検査を、すべての人に提供することです。このビジネスで、今後、遺伝子検査が、個人の日々の健康づくりの計画のサービスの一部として定着する可能性があります。

この検査を受けるべき対象は全女性の1〜2%?
ビジネス至上主義ではないか、との批判も噴出 ただし、誰もが「Color Genomics」に賛成しているわけではありません。

 米国立がん研究所によると、BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異は、全乳がんの5%〜10%を占め、卵巣がんの約15%です。また、この変異を有するからといって、必ずしも、がんを発症することを意味しません。検査が安価になることにより、より多くの患者さんが利用することが可能になりますが、一部の専門家は、すべての女性が検査を受ける必要はないことを警告しています。

 ブルームバーグ誌に対して、アメリカがん協会(American Cancer Society)のデビー•サスロー局長は、すべての女性が検査を受ける必要はなく、乳がんまたは卵巣がんの家族歴を有するような高リスクの人だけが検査を検討するべきであると警告しています。

http://www.bloomberg.com/news/articles/2015-04-21/color-genomics-brings-245-breast-cancer-risk-test-kit-to-masses

 「Color Genomics」は医療としての遺伝学的検査が高価なために利用できない女性のために、「すべての女性プログラム(Every Woman Program)」を立ち上げました。このプログラムは、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)、ワシントン大学メディカルセンター(University of Washington Medical Center)、ペンシルベニア大学アブラムソンがんセンター(Abramson Cancer Center at the University of Pennsylvania)という主要ながんセンターと提携し、検査を買う余裕のない女性に、無料で検査を提供します。なお、消費者が検査を購入するプロセスで、検査を買えない女性への寄付が選択できます。

https://getcolor.com/#/kit/access-for-all

 ところが、英国ワイヤード誌は、すべての女性が検査を受ける必要性について疑問を投げかけています。というのも、遺伝子が原因で発症するがんは、アルコールや肥満などのライフスタイルが原因で発症するがんに比べて、はるかに少ないためです。英国インペリアル·カレッジ·ロンドンの腫瘍外科のジェームズ·フラナガン博士は、「1〜2%の女性はこの検査を受ける価値がありますが、「Color Genomics」はお金を儲けるために、すべての女性に検査を受けるように要求している」と注意を促しています。

http://www.wired.co.uk/news/archive/2015-04/22/color-affordable-genetic-test

 医療としての遺伝子学的検査は、多分にビジネス的要素をはらみ、その是非が問われながらも、着実に一般市民の間に浸透していきつつあるようです。



引用元:
乳がんなどのリスクが3万円で調べられる?!(ダイヤモンド・オンライン‎‎)