前回は、卵巣で発育する卵胞の発育に伴って卵胞からの分泌が増加するエストラジオール(E2)についてお話ししました。今回は、同じく卵胞から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)についてお伝えします。

この黄体ホルモンは卵胞の発育期ではほとんど分泌されず、排卵後に卵胞内の顆粒膜細胞が黄体化した黄体細胞から分泌されます。

採血で測定される値は、卵胞期(低温期)で1ng/ml以下です。排卵後上昇し、黄体期(高温期)中期には10ng/mlを超える値となります。

黄体ホルモンは、子宮内膜を分泌期に変化させ、受精卵(胚)が子宮内膜に着床しやすくなるようにしています。よく、皆さんが高温期に採血されるのはこの黄体ホルモンを測定するためです。黄体中期には、最低10ng/ml以上であることが正常範囲とされ、これ以下だと黄体機能不全が疑われます。

黄体機能不全の状態では、卵胞期で発育した子宮内膜が着床しやすい環境になれず、受精した胚が着床しにくくなったり、着床しても子宮内膜と一緒に月経として剥離(はくり)してしまったりすると考えられています。

黄体機能不全の場合は、この黄体期に黄体ホルモンを注射したり、服用したりします。また、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)という注射で黄体に刺激を与え、黄体からの黄体ホルモンの分泌を促進して黄体ホルモンの不足を補います。

もう一つの方法は、黄体期だけにホルモンを投与するのではなく、卵胞期から治療する場合があります。それは発育する卵胞を刺激して複数の卵胞(できれば2個ぐらい)を発育させて、黄体期の黄体ホルモンを高めようとする方法です。

この方法では黄体期の黄体ホルモンは高まりますが、卵子が2つ以上排卵する可能性があるので、多胎妊娠が起こる可能性があることが欠点です。ですので、できれば2個ぐらいの排卵に留めることが大切になります。

妊娠が成立しなかった場合、黄体から分泌される黄体ホルモンは減少し、排卵から14日目前後で月経が始まります。妊娠が成立した場合は着床した胚の胎盤からhCGが分泌され、このホルモンが黄体に刺激を与え続けるため、黄体からの黄体ホルモンの分泌が維持されます。

また、胎盤が形成されると妊娠6週ぐらいから胎盤からも黄体ホルモンが分泌されるようになります。この胎盤からの分泌が高まってくると黄体からの分泌が徐々に減少し、すべての黄体ホルモンは胎盤由来となります。

黄体ホルモンの機能は、子宮内膜を分泌期に変え胚が着床しやすい環境を形成することと述べましたが、妊娠の後期では、子宮を柔らかくし、妊娠を維持しようとします。

妊娠中に子宮が収縮して硬くなり、切迫早産になることがあります。もっとたくさんのしっかりとしたデータが必要ですが、この切迫流産の時に黄体ホルモンを投与して、子宮の収縮を軽減しようという治療法も考えられてきています。


引用元:
《42》 不妊の検査C