「エストロゲン受容体」が出ている乳がんの治療には「タモキシフェン」という薬が使われる。しかし、実際タモキシフェンが効かなかったり、徐々に効かなくなったりする人が多く、問題となっている。今回、がん細胞に「TGFBR2」というタンパク質が少ない人では、タモキシフェンが効かないと新たに分かった。タモキシフェンが効かない人をあらかじめ診断するための指標にできるかもしれない。

 スウェーデンのヨーテボリ大学を中心とした研究グループが、がんの専門誌キャンサー・リサーチ誌の2015年4月号で報告した。

複雑なシグナルに着目
 およそ3分の2の乳がんは、女性ホルモン「エストロゲン」の影響を受けて増殖が促進される。これらの乳がん細胞には、エストロゲンを受け取る「エストロゲン受容体α(ERα)」が出ている。エストロゲンがエストロゲン受容体αにくっつくと、がん細胞に「増えろ」というシグナルが伝わる仕組みになっている。

 このタイプの乳がんの治療には、この受容体をふさいで、がん細胞が増殖のためにエストロゲンを使えなくする薬「タモキシフェン」が使われている。ところが実際は、ERαが出ている乳がんの3分に1の人は、タモキシフェンが効かないか、最初効いても使っているうちに効かなくなってしまう。

 これまでの研究で、エストロゲンから乳がん細胞に伝わる「増えろ」というシグナルは、同じがん細胞内の「TGFβ」と呼ばれる物質から入る「増えるな」というシグナルと相互作用していると分かっている。

 研究グループは、タモキシフェンが効かない乳がんでは、TGFβのシグナルが異常になっているのではないかと考え、今回検証を行った。

 対象者は、閉経前に乳がんになった女性564人。がんの切除手術と放射線治療を行った後、半数は2年間タモキシフェン治療を行い、もう半数は経過観察のみとした。また、手術で取ったがんの組織を解析し、ERαと、TGFβの受容体(TGFBR2)が出ている様子も調べ、治療効果と比較した。

薬が効かない人を特定できるか
 その結果、乳がん細胞でTGFBR2の出ている量が少ない人は、タモキシフェンが効きにくいと分かった。

 がん細胞にERαが出ている人でのタモキシフェン治療の効果は、同じがん細胞にTGFBR2が多く出ている人の方が少ない人よりも高かった。TGFBR2が少なかった人は、多かった人よりがん再発のない生存率が73%低かった。これまでにタモキシフェン治療を受けた乳がんの、入手可能な遺伝子情報を含んだ過去のデータを4つ解析したところ、やはりTGFBR2が少ないことと再発のない生存率の低さは関連していると確認できた。

 さらに、乳がんの細胞を詳しく調べたところ、TGFBR2をなくしたがん細胞は、エストロゲンで増えることもなく、タモキシフェンで死ぬこともなくなった。つまり、TGFBR2がないことと、ERαのシグナル異常に何らかの関係があると分かった。

 タモキシフェンが効かない乳がんの細胞では、TGFBR2が少なく、シグナルが異常に伝わるように変化していると分かった。シグナルの異常で、がん細胞に薬に対する抵抗性を与える物質「ABCG2」が出てくることも突き止めた。

 TGFBR2はタモキシフェンが効かない乳がんの診断に使えるかもしれないと研究グループは見ている。



引用元:
乳がんで効いていた薬が効かなくなる問題、その理由が判明(Medエッジ)