女性は妊娠すると歯のトラブルを起こしやすくなる。歯痛や歯茎に異変を感じても治療によるおなかの赤ちゃんへの影響を心配して、受診をためらうケースも少なくない。放置すると歯の状態を悪化させるだけでなく、早産などにつながるリスクがある。心配な場合は産科の主治医などと相談しながら早めの治療を心がけたい。

 東京都在住の30代女性Aさんは妊娠6カ月を迎えた2014年末、風邪を引いてから歯が痛むようになった。今年に入り、あわてて歯科医院を受診すると、以前治療した歯の炎症が再発していた。

 炎症で発生したうみを取り除くなどの治療を終えたものの、おなかが大きくなってからの通院は体にも負担がかかった。レントゲン撮影によるおなかの赤ちゃんへの影響も心配だった。女性は「早いうちに歯科検診などを受けた方が良かった」とふり返る。


■女性ホルモン増加


 日本歯科大学病院で妊婦の歯科治療を手がける児玉実穂医師は「妊娠すると口の中の環境が変わり、歯肉が赤く腫れる歯肉炎や虫歯になりやすくなる」と話す。妊娠の初期に感じやすい体の変化の一つに口の渇きがある。ホルモンバランスの変化で、妊娠中は唾液の出る量が減る。唾液は口の中を洗い流すため、分泌量が減ると虫歯になりやすくなる。

 一方、妊娠による女性ホルモンの増加で、歯の周りの組織では血管が広がり、歯肉の腫れや出血が起こりやすい状態だ。日本大学などの研究では、女性ホルモンそのものが栄養になって細菌を増加させるという結果もある。

 食生活の変化も無関係ではない。妊娠して腹部が大きくなるにつれて一度に食べられる量が減る妊婦が多い。1回に食べる量を少なくして、食事の回数を増やすようになる。すると口の中に食べかすが残りやすくなり、細菌の繁殖には好都合になる。

 ただ、妊娠中は歯科治療を避けたり、ためらったりする妊婦は多い。治療によるおなかの赤ちゃんへの影響を懸念して、治療を後回しにしたくなるからだ。体調によっては通院も負担になる。だが、日本歯科大の児玉医師は「歯を悪くしたまま放置する方が赤ちゃんへのリスクは高くなることもある」と説明する。

 歯肉炎が進行して歯周炎などの重い歯周病になるとサイトカインやプロスタグランジンと呼ぶ物質が出てくる。これらは分娩の引き金になる物質と同じ作用を持つと考えられており、早産などのリスクになりかねないのだ。


■麻酔の成分も配慮


 歯科治療では胎児に悪い影響は出ないように対応する。歯科医は妊娠の時期に応じて治療内容を考慮するようにしている。抜歯や麻酔を使う治療をする場合は、妊娠16週目以降の胎盤が完成した安定期に入ってから処置をする。胎児の器官形成期にあたる妊娠初期や、おなかが大きくなって治療であおむけになるのが大変になる妊娠後期はできるだけ避けている。




歯科治療では胎児に悪い影響が出ないよう対応している
 被曝(ひばく)の懸念があるレントゲン撮影では、腹部に鉛のエプロンをつけて覆うのが一般的。麻酔薬も帝王切開で使うのと同じ成分のものを使う。

 ただし、妊婦の歯の治療に慣れていない歯科医が診療を断ってしまう場合もある。歯科選びに迷ったらどうすればよいのか。日本歯科大学病院が2010年4月に開設した妊婦の歯科治療を専門にしたマタニティ歯科外来には他の歯科で断られたり、産科の医師からすすめられたりして受診する人が多いという。同外来の代田あづさ外来長は「産科のかかりつけ医に相談したり、妊婦の歯科検診を受け入れている歯科を選んだりするのも一つの手だ」と話す。

 妊娠中は日々の体調管理に気を配り、出産への不安などからストレスを抱えがち。そのうえで歯科治療で通院し続けるのは負担が大きくなることもある。妊婦の歯科検診に力を入れている横須賀歯科医院(東京・大田)の横須賀正人理事長は「妊娠が分かった早い段階で歯科検診を受けるのが大切」と訴える。母子手帳の配布と同時に歯科検診の情報を提供する自治体も増えており、積極的に活用するとよい。

 日ごろの歯磨きによる予防も重要だ。つわりがひどく歯ブラシを口に入れにくくなった場合も口の中で水をよく巡回させるブクブクうがいを勧める専門家は多い。口の中に食べかすが残らないようにするだけで効果があるという。

 母親が歯の手入れをしっかりしておくと、生まれた後の赤ちゃんに虫歯の原因菌をうつしにくくなるメリットもある。父親や兄弟姉妹なども同じだ。「妊婦さんだけでなく家族全員が歯のケアに力を入れてほしい」と横須賀理事長は話す。



引用元:
歯の治療は出産前に 口内環境変わりトラブル多く(日本経済新聞)