「喫煙に比べて飲酒というのは男女差が少ない。喫煙率は中高生だと男性が高く、女性が低いのですが、男女差が少ないです。実は飲酒率は、特に中高生では劇的に減少しています。これはとてもいいことです。ところが、相対的に女性の飲酒の問題が大きくなる。すなわち飲酒経験率、月飲酒率の男女逆転現象がすでに子どもたちの間で起こってしまっています。喫煙率に引きずられて下がっているのかはわかりませんが、喫煙率はもっと低下が著しいので、飲酒率はそこまでは下がっておりません」

・飲酒経験者率(飲酒経験率) 調査で回答した生徒数に占める飲酒経験者の割合
・月飲酒者率(月飲酒率) この30日以内にお酒を1日以上飲んだことがある人の割合
・週飲酒者率(週飲酒率) 毎週お酒を飲む人の割合
・現在飲酒者率(現在飲酒率) 月飲酒者率と同じ意味

 東京・霞ケ関の内閣府で開かれた第2回アルコール健康障害対策関係者会議で、委員の鳥取大学医学部の尾崎米厚教授(予防医学)が、中高生の飲酒行動について報告をした。

 中高生の飲酒行動は今、飲酒経験者率や月飲酒者率では男性より女性の方が高くなっているという。飲酒経験をする年齢は遅くなってきている一方、中学生だけをみると、月飲酒者に占める多量飲酒の人の割合や飲酒関連で問題を起こしたことがある人の割合は、増加しているという。

 2012年度の全国調査は、無作為抽出した中学校140校と高校124校の生徒14万人に依頼し、約10万人から回答を得ている。96年度以降の6回の調査を比較すると、こうだ=グラフ。


イラスト:ALTタグ
拡大朝日新聞アピタル編集部作成


 2012年度の調査結果をもとに、学校統計による全国の生徒数をもとに推計すると、飲酒経験者が276万3000人、月飲酒者が75万2000人、週飲酒者が15万8000人になる。尾崎さんは、「飲酒経験者は減少傾向にあって喜ばしいが、飲酒経験者の割合は男女が逆転してしまった」と話す。中学生では女子が33.3%に対し、男子は32.5%、高校生では男子が47.6%に対し、女子は50.6%だ。「今後の対策のターゲットは、女性にシフトしていくのではないでしょうか」とみている。

○どこで手に入れているの?
 毎月お酒を飲む中高生のお酒の入手経路やよく飲むお酒の種類も継続して調べている。
 中学生も高校生も、女子は7割が「家にある」お酒だ。男子も6割強が「家にある」お酒と回答している。「コンビニエンスストア等」と回答した人は減少傾向にあるが、中学生で1割、高校生で3割いる。自動販売機や店舗での年齢確認など規制が強まる中でもだ。「居酒屋等」という人も高校生で2〜3割いた。飲食店やカラオケボックスなどでお酒を飲んでいることを示す。

○どんなお酒を好むの?
 「よく飲むお酒の種類」は、中学生も高校生も女子で7割から8割、男子で6割前後が「果実味・甘い酒」だ。「焼酎」は男女ともに、中学生で3割、高校生で4割が「よく飲むお酒」と回答している。「大人が飲むお酒とマーケットシェアが違う」と指摘する。つまり、対策を強化するにしても、ターゲットを絞ったやり方が必要だということだ。

○ノンアルコール飲料との関係は?
 そして、ノンアルコール飲料を飲んだ経験の有無で、現在飲酒者率を比較すると、ノンアルコール飲料を飲んだ経験がある人の飲酒率は、経験がない人に比べて、男子は4.5倍、女子は4.6倍高かった。尾崎教授は、一部ではノンアルコール飲料が飲酒の入り口になっている可能性があるとみている。

 このような状況をみると、若い人たちへの誘引防止策が重要なポイントになる。ただ、尾崎さんは「そこは一番議論になるところです」という。利害関係者が多く、CMや小売りの規制にもつながる問題だからだ。自販機や店舗販売だけでなく、飲食店やカラオケボックスなどでの提供や持ち込みといった問題もはらんでいる。

○家庭内で起きていること
 尾崎さんは、内閣府の会議でこうも説明した。
 「中高生の飲酒は、親の飲酒が強い関連要因で、母のほうが父よりも強いということも明らかになっています。結構な割合の親が、子どもにお酒を勧めているということもわかりました」
 また、中高生の飲酒率が下がっているとはいえ、喫煙の有無との関係を分析すると、「喫煙者の飲酒率は減っていない」という。「社会の構造と密接に関係しているのではないか」とみている。

 だからこそ、尾崎さんは「広く浅くの対策はもうやっている。対象の焦点化を考える必要がある。たばこの値段を大きく上げたため、子どもたちが簡単に変えなくなった。お酒でもできるのではないか。格安販売がなくなることで、アルコール依存症の大人もお酒を買いにくくなる効果がある」と提案する。
 提案は他にもある。

・飲み放題文化を変えられないか
・コンビニエンスストアや酒販店でお酒を売る量、パッケージやびんの量を改善できないか
・大学や職場で、新入生や新入社員に対するアルコール教育を充実できないか
・予防として、産業医や産業保健師が健診の場でスクリーニングし、対応できないか

 このようにアルコールにかかわる対策は、多様だ。

 例えば、教育。
 誰が、どこで、どのような対象に、どのような内容を教育するのか?
 尾崎さんと同じ内閣府のアルコール健康障害対策関係者会議の委員である北海道札幌東高校の渡辺祐美子教頭に尋ねてみた。

 「中高生でいうと、保健の授業で扱う喫煙や飲酒、薬物乱用防止のカテゴリーに入ります。ただ、飲酒に比べて、今は薬物乱用防止に力を注ぐ傾向にあります」

 その理由をこう説明する。
 ひとつはわかりやすさだ。薬物は社会的な問題となっていることもあり、「『ダメ』『絶対ダメ』といえる」。たばこの場合、日本政府も署名した「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」が発効した。政府は対策に取り組まなければならない。がんなどの健康リスクがあることは知られている。副流煙の問題もある。「たばこは、中高生にとって、かっこいいことでもなくなった。臭いし、歯が汚くなるというイメージを持つ」という。また、「CMなど広告の規制も大きい」と話す。


イラスト:ALTタグ
拡大文部科学省が高校生に配布している冊子=渡辺祐美子さん提供



 渡辺さんによると、高校生には文部科学省が作成した『健康な生活を送るために』という冊子が配布されている。喫煙、飲酒、薬物乱用、コミュニケーション、感染症、心の健康、ダイエットなど49ページもある。中学生も高校生も同じような冊子が配られている。教材はすでにある。高校の保健の授業は、2学年で計70時間(授業70回分)。このうち飲酒に当てられるのは、だいたい1時間(授業1回分)だという。「生徒に議論させたり、ワークをさせたりしていますが、自分たちが多量飲酒者になるとは思っていません」という。

 議員立法で、2013年12月、アルコール健康障害対策基本法が成立し、2014年6月に施行された。社会的な問題ととらえ、政府も省庁横断的な総合対策が必要になった。来年1月をめどに、政府は基本計画を策定する方針だ。尾崎さんや渡辺さんが委員となっている関係者会議が、案をつくる役割を担う。委員には、医療者や断酒会の人もいれば、お酒にかかわる業界団体の人もいる。考え方は多様だ。


引用元:
「甘いお酒」「家のお酒」 中高生への誘惑、断ち切れますか?(朝日新聞)