晩産化を背景に注目されている健康な女性の卵子凍結保存。千葉県浦安市が本年度から、少子化対策の一環として公費で助成することになり、認知が進みそうだ。一方で、卵子凍結はさまざまな問題をはらんでいる。3年前、凍結作業を中止した不妊治療専門の「はらメディカルクリニック」(東京都渋谷区)を訪ねた。
◆中止の医院、未婚者多く戸惑い
培養室に並ぶ六本の液体窒素タンク。二十九人の卵子約二百三十個が凍結保存されているが、院長の原利夫さん(59)の表情は浮かない。「凍結卵子で妊娠した人は、うちではこれまで一人もいません」
同院では約十五年前から、体外受精の際に夫から精子を採取できない場合などに限り、未受精卵子を凍結することがあった。二〇一〇年、将来の妊娠に備えて採卵のみを希望する女性も対象にしたところ、三十二人が凍結に踏み切った。
だが、二年後には新規受け付けを中止。原さんは「もはや不妊治療ではなく、妊娠の夢や宝くじを売っているようなものと思うようになったから」と話す。
当初想定していたのは、「パートナーはいるが、仕事が忙しく今は妊娠できない」など、女性がキャリアのために利用するケース。ところが、実際は希望者のほとんどが三十代後半から四十代前半の未婚女性で、パートナーがいない。本人より母親が心配して申し込むケースも多かった。
同院によると、凍結卵子での妊娠率は一〜二割と低く、高齢になると必要な採卵数も増える。解凍後、卵子の機能が回復しない場合も多い。体外受精や維持費を含む一連の作業には総額百万円前後かかるという。
同院で卵子を凍結した人のうち三人がその後結婚、妊娠した。うち二人は凍結卵子ではなく、新たに採取した卵子で体外受精。残りの一人は自然妊娠だったため、凍結卵子はまだ一個も使われていない。「利用率0%。非常に効率が悪い」
院内の倫理委員会で「凍結卵子は四十五歳で廃棄」と決めていても、規定に従わない人が出るトラブルもあり、「がん患者などには希望の持てるいい治療だが、健康な女性にとってはパートナーが見つかるまでのお守りでしかない」と原さん。「公費を出すなら、卵子を凍結しなくていい社会づくりを進めた方がいい」と話している。
(砂本紅年)
◆千葉・浦安市は公費助成、研究にも力
全国トップレベルの財政力指数を誇り、三十億円の少子化対策基金を設けている浦安市。本年度から、基金と国の交付金(三年間で計九千万円予定)で、順天堂大浦安病院に寄付講座を設置し、卵子凍結に関する研究を進める。
希望者は三割負担で卵子を凍結できるが、対象は二十〜三十四歳に絞った。採卵年齢を下げることで妊娠率が上がるかが、主要な研究テーマになる。
市は、独自の不妊治療の上乗せ助成や切れ目のない子育て支援策、出産適齢期の啓発など、ほかの少子化対策にも力を入れている。「高齢出産を助長する」との批判もあるが、担当者は「卵子凍結は数ある少子化対策の一つ。晩産化の現状から目をそむけるべきではない」と強調する。
<卵子凍結>治療で不妊になる恐れがあるがん患者らに、将来の妊娠の可能性を残すため研究されてきた。晩産化で「卵子の老化」を避ける方法として関心が高まり、日本生殖医学会は2013年、健康な女性にも凍結保存を認める指針を公表。一方、会員の多い日本産科婦人科学会は医学的理由以外では推奨しないとしている。
引用元:
晩産化で注目、卵子凍結 保存も活用ゼロ (中日新聞)