がんなど、さまざまな病気にかかるリスクがどれくらいあるのかを気軽に検査できるサービスが浸透してきた。遺伝子や身体のタンパク質を構成するアミノ酸などを使い、病気にかかるリスクが高いか低いかを調べる手法で、費用は1回当たり数千円〜数万円。既に約10万人が利用したサービスが出ているほか、新規参入も相次いでおり、今後、普及が加速しそうだ。

 胃がん、大腸がん、肺がんはA、前立腺がんはB…。病院で血液を採取して約2週間後。記者の元に送られてきた検査結果は、前立腺がんにかかるリスクは普通の人より若干高いものの、他のがんのリスクは低いというものだった。

 記者が体験したのは、味の素が2011年から提供するアミノ酸の濃度でがんリスクをスクリーニング検査する「アミノインデックス」だ。Bという結果は、前立腺がんでは一般より2倍程度リスクが高いという結果。だが、開発した同社健康ケア事業本部アミノインデックス部長の小倉康彦氏は「あくまでリスク。がんかどうかは精密検査が必要」と強調する。

 調味料をはじめアミノ酸の研究を長く続ける同社が、血中にある21種類のアミノ酸濃度のバランスについて、健康な人とがん患者とでは異なるパターンになることを発見。1回の血液採取だけで、複数のがんのリスクをA〜Cの3段階で判定する。健康な人が各種のがんにかかる割合が1000人に1人とすると、Aは0.3〜0.7倍、Bは1.3〜2.1倍、Cは4.0〜11.6倍のリスクとなる。

 腫瘍マーカーなど従来のがん検査に比べ、「初期段階からのリスクが分かる」(小倉氏)のが特徴。Cランクの人には精密検査を勧めており、腫瘍マーカーには反応しなくてもがんが発見される人が100人のうち数人いるといい、早期発見できる可能性が高まる。乳がんや女性特有の子宮がん・卵巣がんも検査対象だ。検査費用は2万円前後。

 既に全国で1000程度の医療機関が採用しており、人間ドックのメニューになっていることも多い。消費者の関心も高まっており、14年に3万人以上が受診。累計では約10万人に達するという。将来的には「健康診断を受診する年間約700万人の1割程度に普及させたい」(小倉氏)考えだ。患者が増加傾向で、自覚症状がなく発見しにくく、治りにくい膵臓(すいぞう)がんの早期発見技術も確立し、15年内に検査に加える予定など、検査項目も広げる方針だ。

 遺伝子を解析して病気のリスクを分析するサービスも、人気が高まる。国内最大手のジェネシスヘルスケア(東京都渋谷区)は、遺伝子検査が専業。05年以降、医療機関や大学などから遺伝子の受託解析業務を行ってきた日本のパイオニアだ。

 個人向けにも、がんや生活習慣病などの疾患の発症リスクや体形、美容・寿命の傾向など50〜330項目について調べることができる「GeneLife(ジーンライフ)」を提供。いずれも料金は1回当たり数千円から3万円程度だ。太りやすい要因が分かりダイエットに役立つ検査や、肌タイプを判定して美容アドバイスをする検査キットなどでは、ディーエイチシー(東京都港区)やドクターシーラボといった化粧品会社などと提携し、利用者を大幅に増やしている。

 ジェネシスヘルスケアの遺伝子検査における市場シェアは約70%に達した。受託業務も含め、既に約40万人を解析した豊富な遺伝子データベースが強みだ。佐藤バラン伊里代表取締役は「(外国人と異なる)日本人の生活習慣病などのリスクを検査できる」という。

 遺伝子検査にはこのところ多くの企業が参入している。ネット業界大手のディー・エヌ・エー(DeNA)は昨年8月、最大280項目の検査ができる「MYCODE(マイコード)」の提供を始めた。「徐々に利用者が増えている」(同社広報部)という。昨年末にはヤフーやファンケルも同様のサービスを始めたほか、KDDIも参入を検討している。

 一方で、こうした病気リスク検査の普及に向けては課題もある。米人気女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子検査の結果、乳がんや卵巣がんのリスクが非常に高かったことから乳房を切除し、卵巣を摘出した。「寿命を延ばした」(業界関係者)という評価の一方、身体へのダメージを懸念する見方もあり、大きな反響を呼んだ。

 また、検査や解析結果という高い秘匿性が必要な個人情報の管理の問題や遺伝情報の広告への利用などについても一定の歯止めを求める声もある。個人情報と遺伝情報を完全に分離して管理しているというジェネシスヘルスケアの佐藤氏は、検査する企業には高い倫理性が必要としたうえで、「100年産業のまだ入り口。消費者に正しく認知が広がるといい」と述べる。

 ただ、検査の普及は市場の拡大にとどまらず、病気を未然に防いだり、早期発見が増えることで膨れ上がる医療費の削減につながったりする可能性もあり、経済的なインパクトは大きい。記者も若干リスクの高いがんについて、定期的な検査を心がけるつもりだ。(池誠二郎)

引用元:
病気リスク検査じわり浸透 遺伝子やアミノ酸で手軽に分析、今後の課題は?(経済総合(SankeiBiz))