米国の産婦人科医は子宮筋腫などの摘出手術でこれまで一般的だった電動式の腹腔鏡下モルセレーターの使用を控え、他の手術方法を採用するようになっていることが医師らの話や新たな調査で分かった。この医療器具が隠れたがんを拡散する恐れがあるというのがその理由だ。
モルセレーターは体への負担が少ない低侵襲手術を行う器具として年間数万件の手術に用いられてきた。だが、米食品医薬品局(FDA)は昨年11月、子宮筋腫の摘出手術を受ける女性350人のうち1人の割合で筋腫内に子宮肉腫というがんが隠れており、この器具を使用することによってこのがんが体に拡散される恐れがあるとして、4月に出した警告をさらに強めた。この器具は高速回転する刃が組織を切断する仕組みになっている。
FDAがモルセレーターの精査を開始したのは2013年12月。ウォール・ストリート・ジャーナルがこの器具を使用したことでがんが悪化したボストンの医師の話を報じた後だ。その後、多くの病院がこの器具の使用を中止、もしくは制限した。米国最大の製造元であるジョンソン・エンド・ジョンソンは14年7月に器具の販売を停止した。
米医療保険最大手のユナイテッドヘルス・グループは来月から、モルセレーターを必要としない外来患者対象の膣式施術を除く、すべての子宮摘出施術について事前承認を義務づける。
手術法の変更を定量化するのは難しいが、数十人の医師や病院から聞いた話やエール大学の新たな調査などにより、手術法の変化が広い範囲に及んでいることが分かった。エール大学の調査によると、低侵襲手術を行った件数の多い医師や、研修医の教育を行っている大手医療機関の医師ら合計43人の間では、78%がFDAによる警告の後に手術方法を変更した。
医師たちは今、恥骨の上を小さく切開する「ミニ開腹」術を使って子宮を摘出する方法を最も多く選択している。この場合、傷の長さは1.5〜3インチ(約4〜8センチ)程度となり、モルセレーターを使用した場合の0.5インチ〜0.75インチ(約1.3センチ〜2センチ)より大きい。この調査は5月に米産婦人科医学誌「American Journal of Obstetrics & Gynecology」に掲載される。
この調査の執筆者でエール大学医学部のブランダ・バブサール・デサイ准教授は傷が大きくなればそれだけ感染のリスクが増大すると話す。しかし、こうした変化がヘルスケア費用や全体的な回復にかかる時間、また合併症などに及ぼす影響については依然、不透明だと指摘する。
エール大学の調査で手術法を変えたと答えた医師の4分の1は、従来の開腹手術による子宮摘出をときどき行っているという。開腹手術は最も一般的な方法の一つで、傷口の長さは5〜7インチほどになる。
低侵襲手術に比べ、開腹手術は入院の長期化や失血量の増加、高い感染リスク、通常の活動に戻るまでに要する期間の長期化につながるとFDAは指摘する。一方、腹腔鏡を利用した手術は時間が長くなる可能性があるうえ、尿路損傷のリスクも高まる。
テキサス州ヒューストンにあるメモリアル・ヘルマン・テキサス・メディカル・センターで産婦人科のチーフを務めるアラン・カッツ医師は、同センターが約1年前にモルセレーターの使用を禁止したため、開腹手術の件数が増えたはずだと話す。カッツ氏はFDAの警告には反対しており、「(患者の)傷口は大きくなり、回復には時間がかかり、痛みも増している」と話す。
だが、他の医師や病院などは、FDAの警告後に開腹手術や合併症が急増しているとの懸念は実証されていないと話す。
ミシガン州に本拠を置くカトリック系のトリニティーヘルスは5月にモルセレーターの使用を中止したが、広報担当者によると、その後に医師や患者などから不満は出ておらず、合併症の発症率にも変化がないという。トリニティーヘルスは21州で86の医療機関を運営している。
マサチューセッツ総合病院の産婦人科チーフ、ジョン・ショーギ医師はモルセレーターの使用をめぐる議論が子宮筋腫などの摘出手術に関する国の新たな基準につながると確信していると話す。
引用元:
子宮手術法に変化―がん拡散リスクの警告受け (The Wall Street Journal)