最近注目のナノ物質「グラフェン」に、がんの中でもたちの悪い細胞「がん幹細胞」の増殖を選択的に抑える効果があると分かった。

 英国マンチェスター大学マンチェスター細胞代謝センターを中心とした研究グループが、がんの専門誌オンコターゲット誌2015年2月24日オンライン版で報告した。

がん幹細胞にグラフェンを試した
 1997年に白血病で最初に見つかった「がん幹細胞」は、次々にがん細胞を生み出し、いろいろな種類のがんに変化する能力も持つ特殊な細胞だ。今ではさまざまながんから発見されており、がん幹細胞に効く薬の開発は急務となっている。

 がん幹細胞は、困ったことに、抗がん剤や放射線療法で根絶やしにできない。生き残った細胞は、再発や転移、抗がん剤耐性などに大きく関わっており、治療上の大きな問題となっている。

 「グラフェン」という物質をご存知だろうか。これは、炭素の原子が蜂の巣のような6角形の格子状に広がっている原子1個の厚さの極めて薄いシートだ。一般に、太陽電池や半導体など、エレクトロニクスへの応用でよく知られている。

 一方でグラフェンは、さまざまな液体の中で安定に存在し、細胞に入ったりくっついたりできるので、薬としても利用価値があるのではないかと注目されている。

 今回研究グループは、グラフェンの仲間「グラフェンオキシド」に、がん幹細胞を抑える働きがあるかどうかを検証した。グラフェンオキシドは、シート状ではなく、大きさが不均一なフレーク状だ。

 検証は、「スフィアアッセイ」という実験により行われた。シャーレで培養された正常な細胞は、シャーレの面など「足場」がないと増殖できない。しかし、がん幹細胞は、足場がなくても増殖できる性質を持つ。その結果、シャーレの中で、がん幹細胞が存在する場所は、ぽつぽつと盛り上がり「スフィア」が形成される。その様子で、がん幹細胞が増えているかどうかを調べるのがスフィアアッセイだ。

幹細胞の性質を奪った
 今回、乳がん、膵臓がん、肺がん、脳腫瘍、卵巣がん、前立腺がんの6つのがん細胞をシャーレの中で培養し、そこにグラフェンオキシドを加えてスフィアの形成を調べた。結果、これら6種類のがん全てにおいて、グラフェンオキシドの添加により、スフィア形成が抑えられた。これは、がん幹細胞の増殖が抑えられたのを意味する。

 さらに、正常な細胞や、がん幹細胞ではないがん細胞にグラフェンオキシドを加えても、細胞の増殖に影響はなかった。

 そこで、グラフェンオキシドが、なぜがん幹細胞だけの増殖を抑えるのか、そのメカニズムを調べた。

 結果、グラフェンオキシドはがん幹細胞が「幹細胞」としての性質を保つのに特に重要な3つのシグナル(WNTシグナル、Notchシグナル、STATシグナル)が伝わるのを邪魔し、その性質を失わせてしまうと分かった。

 グラフェンオキシドは、がん幹細胞を根絶できる、副作用のない治療薬になり得ると研究グループは見ている。



引用元:
たちの悪い「がん幹細胞」、根絶可能な薬の候補を発見(Medエッジ‎‎)