四月に本格スタートする国の「子ども・子育て支援新制度」の一つとして、全国百五十市町村に、妊娠から子育て期までを一貫して支える「子育て世代包括支援センター」が設置される。先駆的に取り組む自治体では確かな手応えの半面、担い手の処遇問題などの課題を指摘する声も上がり始めた。

◆三重・名張で先駆的取り組み
 「ええねん、寝るだけええねん」

 三重県名張市の「鴻之台・希央台まちの保健室」。看護師の三永拡子(みつながひろこ)さんは、九カ月の福森大和(やまと)くんの夕方の昼寝に悩む母親、美紀さん(34)に声をかけた。「インターネットや育児雑誌の情報で否定され、悩んでいることも、ここでは受け止めてくれる」と美紀さん。

 三永さんは市が独自に養成する、子育ての相談相手「チャイルドパートナー」だ。地域包括支援センターの支所で、市内十五カ所にある「まちの保健室」に常駐。妊娠届を出した全員を対象にした母子健康手帳発行教室では、パートナーの連絡先も渡される。 

 三永さんは、同じパートナーで介護福祉士の木田佳江さん(51)と活動。「新興住宅地は地域の絆も薄い。一人で子育てを頑張り、つらくて涙を流したり、ママ友がつくれなかったりする母親もいる」と三永さん。母親らにとって、三永さんは「何かあったら浮かぶ顔」「心のお守り」。「夫でも親でも友達でもない誰かに話したい悩みも話せる」と語った母親もいた。

 「私たちは、守秘義務を持つおせっかいおばちゃんの位置づけ。相談者の不安を少しでも取り除き、支えになりたい」と三永さん。相談に訪れると、市の有料ごみ袋が無料でもらえる特典もある。

 パートナーが緊急性があると判断した子育ての悩みは、市健康支援室の母子保健コーディネーター(保健師や助産師)と共有する。コーディネーターは妊娠届の提出者全員に支援プランを作成。産後十日目に全戸に電話相談を実施し、その内容を基に地域住民である主任児童委員が、乳児家庭全戸を訪問する。

 この取り組みは「名張版ネウボラ」と呼ばれる。子育ての悩みを解消し、母親による虐待や養育放棄を防ごうと、二〇一四年度から国のモデル事業として先行実施している。ネウボラとは、フィンランド発祥の子どもと家族のための切れ目ない支援のことだ。

 市健康支援室の保健師、上田紀子さんは「全ての妊婦や乳幼児の保護者に伴走型の予防的支援をすることで、不安が早期に解消される」と説明。「産科や保育所などの情報も入りやすく、望まない妊娠や養育放棄、住民票のない子を把握したこともあった」と成果を語った。

 市は、チャイルドパートナーを新制度の「子育て支援員」研修で育成するが、処遇面に課題が残る。三永さんは時給八百五十円の嘱託職員。上田さんは「本業の看護師で働くよりもずっと安い。チャイルドパートナーたちの使命感が制度を支えている現状を理解してほしい」と訴える。

 産前産後ケアに詳しい東邦大看護学部の福島富士子教授(母子保健)は「晩婚化が進み、年齢的に業務上の要職にいることの多い配偶者の協力や、高齢化した親の支援を得にくくなった」と、母子が孤立しがちな現状を指摘。「産後は初めて地域とつながる時期。地域の特性や資源を生かし、支えるための基盤づくりが必要」と話している。

(安食美智子)



引用元:
<どうなるの?子育て支援〜新制度を考える〜> 「包括センター」が母親の孤立防ぐ(中日新聞)