先週末、千葉県浦安市が将来の妊娠と出産に備え、女性が卵子を保存することに対して助成することが話題になりました。
生殖医療にかかわる医療関係者からは「高齢出産を助長する」などと疑問の声が聞かれました。
確かに、若いがん患者で抗がん剤治療を受ける方にとっては、卵子の凍結保存、または卵巣の凍結保存は、がん治療後の妊孕性(妊娠できる力)温存のための一つの方法となります。日本産科婦人科学会でも、このような医学的適応に関しては、治療としての価値があるものとして、治療状況を登録していただき治療内容を把握していきます。
しかし、卵子凍結保存には、もう一つの利用目的があります。「社会的適応」といいますが、この目的は、今現在、結婚相手がいない、仕事を優先するなどの理由で、現在の時点では、妊娠することできない人が、卵子をできるだけ若い時期に凍結保存しておき、将来相手が見つかったとき、仕事が落ち着いたときなど、妊娠・出産できる状況ができたときに、凍結卵子を融解し妊娠に用いる目的で凍結保存を行うことです。
この目的を聞くと、一見、現時点では妊娠できない人本人のためになり、かつ少子化対策にもなり、現時点では妊娠できない人への福音のように思えると思います。しかし、これにはいろいろな問題点があります。
まず、確かに凍結卵子は加齢の影響は受けませんが、採卵した女性は融解し胚移植するときには、高齢化しているわけですから、子宮などの生殖器に妊娠を妨げる病気が発生する可能性があります。また全身にも病気が発症する確率も高くなり、妊娠には適さない体の状態になる場合もあります。また高齢になると、凍結保存した卵子で妊娠したとしても、妊娠中や出産時の母体や児のリスクも高くなります。
さらに、出産すれば終わりではありません。子が一人前になるまで、親としての責任があり、健康でその子を守ってあげなければなりません。また、子どもが小さいうちは、たくさん病気もします。夜中や仕事中でも子供を病院に連れていくなど、子育ては体力がいります。親が若いと体力もあり、楽しみながら子育てもできますが、高齢になってからだと、子育ては体力的にかなり負担を感じやすく、さらに親の自分が病気を発症する確率も高くなるので、さらに大変になります。
これだけを考えても、凍結しておいて、高齢になってから出産をするのは、その人にリスクを負わせることになります。また、その自治体は少子化対策と考えておられるかもしれませんが、このように高齢になってから出産し始めた人は、体力的な点、健康面、また、定年までに子育てが終わることができる点などにより、二人目は生まないと選択される方が多くなるので、必ずしも少子化対策には結びつきません。また、年齢が高齢になってから産むと、出産や子育て以外にも親の介護が同時になる可能性も増えます。親の介護を含めて、自分のライフプランを考えていただければと思います。
さらに、経済的には、採卵時の初期費用約100万円、凍結卵子の1年あたりの保管料金1個1万円くらいかかります。
また、20歳代で保存すると、妊娠を確実にするには凍結保存する卵子は20個ぐらい必要ですので、年間20万円ぐらいかかります。40歳だと、卵子の質も落ちるので、妊娠を確実にするには100個ぐらい、45歳ではさらに多数の卵子の保存が必要だと考えるのでさらに費用がかさみます。
また、子を出産するために必要な数の卵子を40歳や45歳の方に採取するのは、とても厳しいと思います。一回の治療でどのくらいの数の卵子が取れるのかというと、今の体外受精の成績で、25歳ですと9.5個、30歳ですと8.3個、35歳ですと6.1個、40歳ですと3.9個、45歳ですと1.9個です。20個を凍結するにも高齢になると大変であることがわかります。どの施設も、まだ、卵子の長期保存の経験はなく、本当に10年後20年後に保存した自分の卵子を確実に使えるかは不確実なところもあります。
これらのことを考慮すると、自治体を含め、国民全体が若い時期に安心して妊娠出産ができる社会環境を整備することの重要性を強く認識し、自治体は若い時期に妊娠出産ができる社会環境をより充実させていくことに力を注いていただきたいと思います。
引用元:
《32》 卵子凍結保存のリスク(apital)