2014年1月に、乳がん手術後の再建用人工乳房(インプラント)が全面的に保険適用になって注目されている。その最新事情をダイヤモンドQ編集部が紹介する。

 乳がんで失った乳房を取り戻す手術が乳房再建術だ。その方法には、自分の体の組織を移植する皮弁法と、人工乳房(インプラント)を使うインプラント法の2種類がある。

 自家組織による乳房再建術は従来から保険適用となっていたが、2週間程度の入院が必要な上に、乳房以外の場所に大きな傷痕が残ってしまうことなどから身体的な負担が大きいため、ハードルが高かった。

一方、人工乳房による乳房再建は、2〜3泊の入院で済み、身体への負担も小さいが、全てが自費だったため、経済的負担が大きく、受けられるのはごく一部の患者に限られていたのが実情だった。

 それが2014年1月、再建用の人工乳房が全面的に保険適用になったのだ。

 がん研有明病院形成外科部長の澤泉雅之医師は「保険適用によって外来診察室の光景は一変した」と語る。その大きな変化は三つ。

 一つ目は、患者が選ぶ乳房再建の方法が変わったことだ。

 乳房再建には、二つの方法がある。(1)乳がんの根治手術と同時に乳房再建を開始する一次再建、(2)乳がん治療終了後にあらためて乳房を再建する二次再建、である。これら二つの再建手術のうち、「一次再建を選ぶ患者が1.4倍ぐらいに増えた」(澤泉医師)のだ。

 一次再建は、乳房の切除手術と同時に専用の組織拡張器(ティシュ・エクスパンダー)を挿入する。つまり、切除後の皮膚を徐々に伸ばしておき、手術をしていない側の乳房と同じ大きさになったところで、乳房を再建するのだ。

乳がん切除と同時に
拡張器を挿入し喪失感を和らげる 治療のためとはいえ乳房を切除する喪失感は、患者にとって計り知れないものがある。「一度、完全に平坦な胸にするよりは、乳がん切除手術と同時にエクスパンダーを入れて膨らませておいた方が、喪失感を少しでも和らげることができる」と澤泉医師は言う。

 二つ目は、高齢者でも乳房再建を望む患者が増えたことだ。

 かつては70代で再建を望む患者は、ほとんどいなかった。しかし、保険適用になって以降、過去に乳房をなくした人が再建手術を受けるケースが増加傾向にある。

 人工乳房には、大きさや形などで200ぐらいの種類がある。

 ただし、高齢者向けの下垂タイプはない。「患者さんはそういうことまでちゃんと調べて、形が左右違っても構わないから人工乳房を入れてほしいとやって来る」という。

 三つ目は、乳房を全て切除してから乳房再建するケース(全摘+乳房再建)と乳房の一部を切除する温存手術の割合が逆転したことだ。

 ここ5年間ぐらいの乳房温存率の全国平均は60%。

 がん研の場合、再建術に保険が適用されるようになってからは「全摘して乳房を再建するのが60%、温存が40%という割合に逆転した」。温存手術を希望する患者は減り、全摘+乳房再建がスタンダードな治療法になりつつあるのだ。

 というのも、温存手術は部分的には切除が必要なため、どうしても乳房の変形は免れない。無理に温存すれば、再発のリスクも高まる。「それよりむしろ、全摘して憂いをなくし、きちんと再建した方がいいと考える患者が増えた」ためだ。

 保険の適用によって、乳がん治療の選択肢は大きく変わった。

 他の最新治療・技術の動向については、『ダイヤモンドQ』を参考にしてほしい。



引用元:
人工乳房が保険適用され乳がんの全摘が温存を逆転(ダイヤモンド・オンライン)