先日、高校生の保健体育の副読本に「不妊」について記載されるようになることが決まったという報道を目にしました。日テレNEWS24によると、「今回から初めて不妊に関する知識も記載する方針が決まった。高齢出産の場合、染色体異常の確率が上がるリスクがあることや、年齢が上がると妊娠しづらくなることなども記載される方針だという」とのことです。

自分の身体についての基本的な知識

 私はこれを基本的には喜ばしいニュースだと考えています。仕事やプライベートで女性と話していると、自分の身体についてのとても基本的な知識が意外に知られていないことを感じますし、高齢出産や出生前検査などが社会問題としてトピックに上がった場合のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などでの反応を見ていると、若いうちから男女とも生殖に関する知識を教育の現場でもっと習う機会があった方がいいのではないかと思っていたためです。生殖だけでなく、月経に関すること(生理痛はあって当たり前ではなく病気のサインであることや、3か月以上月経が来ない場合は産婦人科に行った方がいい、など)も学校で教えてもらえると大変助かります。

 従来の教育では、性や生殖についてはあまり習わず、習ったとしても「避妊」がメインになるため、「妊娠はうっかりしているとおこるもの」というイメージを抱いている人が多いと思います。そのため、「欲しくなれば授かることが出来る」「結婚すれば妊娠出来る」と誤解している人が珍しくありません。「いつになったら子どもを作るの?」という心ない言葉をかけられる人もいるので、「男女が希望しても授からないことがある」ということを知って配慮ができるようになるためにも、不妊という概念を教えることは重要だと思います。

 しかし、報道のニュアンスでは、少し女性側の「高齢不妊」に偏った教育が行われるのではないかと危惧します。不妊の半分は男性に原因があることにもウェートを置いてもらわないと「不妊は女性のものである」という誤解を持たれては困りますし、高齢不妊以外の原因についても教えてもらわないと、「女性が若ければ健康な子どもを授かることが出来る」と間違った認識をされては意味がありません。

若いうちに知識与えれば、早く産む?

 私が最も危惧するのは、生殖年齢の限界について若いうちに知識を与えれば「女性が早く生むようにライフプランニング出来る」などと教育サイドが非常に単純に考えてはいないかということです。こういった考えは医療者からもたびたび聞きますが、少子化、晩産化の原因がそんなに単純ではないことはこのブログの読者ならすでに理解していただいていると思います。「妊娠出来る年齢に限界があるなんて誰も教えてくれなかった!だから私は妊娠する時期を逃した」という人がいることと、「知ってさえいれば産める」ということはイコールではありません。

 教育だけに限りませんが、情報提供にはバランスが重要であると考えます。ちょうど3年前に「卵子老化」を衝撃的に扱ったテレビ番組が放送されてから、ブームのように様々な媒体で取り上げられ、女性たちは不安をあおられています。それ以前の「40歳でも欲しければ誰でも産める」というような間違った認識が広まっていた状態はもちろんよくありませんが、20代前半向け女性誌の読者がおびえているのを見ると、バランスが悪い取り上げられ方をしていると感じます。妊娠する能力に年齢が関係あるのはもちろんですが、個人差も非常に大きく、35歳になったとたん不妊になるわけではありません。妊娠可能年齢について情報提供する際は丁寧にお願いしたいです。

 高齢出産のリスクも叫ばれている一方で、身体的に最も妊娠出産に適している20代前半で産もうとすると「まだ若いのに大丈夫?」と言われるのもまた事実です。妊娠・出産・子育てにおいては社会的な基盤もとても重要だからです。

不妊の社会的背景も教育を

 高齢不妊は知識の欠如だけが原因ではなく、女性のキャリア形成の時期と妊娠適齢期が重なっていることや、長引く不況で雇用が安定せず男性も家族を持つことに自信を持ちにくいなどの社会的要因による「社会性不妊」も多いのですから、せっかく学校教育で不妊の知識を教える機会ができるのなら、社会的背景についても教えていただいたほうがバランスが良いと思います。

 話題性を優先した情報提供は、一方向に偏ったり不安を過度にあおったりしがちです。私はこちらのようなサイトで記事を書かせていただいていますが、ビジネスを考えて情報発信する必要のない非常に幸運な立場にありますので、今後もバランスを考えながら発信していきたいと思います。


引用元:
「不妊」について…高校生に教えること (読売新聞)