あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
新年初めのコラムということで、今日は最近勉強したことで、皆さんに知っていただきたいと思ったことを書きます。
以前も男女の妊娠適齢期について書きましたが、最近新しく知ったことに非常に驚いたことがあります。
内閣府では昨年11月より「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」を開き、来年度からの「少子化社会対策大綱」を検討しています。
その検討会で妊娠適齢期に関し、会議に出席された方々に説明する機会があり、最新の資料を集めていました。
男性の妊娠適齢期についてですが、以前も男性の加齢の視点から、男性の妊娠させる能力、相手の女性の流産率、生まれた子の先天異常率や、精子のDNAの断片化率についてお話しました。これらの統計結果を踏まえ、男性の妊娠適齢期も20代ということを書きました。
この結論は変わらないのですが、今回出であった論文(Am J Psychiatry 2013; 170: 599-608)には、高齢のお父さんから生まれた子は、自閉症、統合失調症などの精神障害の罹患率が高まると述べられていました。これに関する疫学研究は35年も前に発表されており、最近でも2011年にたくさんの論文を集めたメタアナリシスでも実証されています。
女性が高齢の場合でも生まれた児に先天異常が増えることについて以前、触れました。しかし、女性と男性では、疾患の種類が異なります。これは卵子と精子のでき方に違いがあるところに由来すると考えられています。女性の卵子は、その方がまだお母さんのおなかの中にいる胎児の時に、約20回分裂を行い、約700万個が作られます。そのあとはもう作られることはありません。その女性が大人になって、排卵するたびに減る一方です。作られてから排卵するまでの時間が長いほど、質的に問題が起きます。
一方、精子はお母さんのおなかの中にいる胎児の時に、約30回の分裂を行い、いったん停止しますが、思春期以後、また、分裂を開始します。だいたい16日に一回ぐらい分裂すると考えられています。一生では800回以上分裂をすることになります。ですので、精子は卵子に比較するとその都度新鮮な細胞が作られることになり、作られてからの時間が長いことの影響はないと考えられます。
しかし、問題は、高齢になるほど今までの細胞分裂の回数が多くなることです。細胞分裂は全く同じコピーの二つの細胞になるのですが、このときわずかながらDNAの複製にミスが起こると考えられています。このミスは避けられないものとされていて、分裂回数が多いほど、その影響を受ける可能性が高くなるわけです。よって高齢な方ほど、たくさん分裂をして、精子がつくられるための基の細胞となるわけですから、この細胞から作られる精子のDNAに突然変異が高度に起こっている可能性が高いと考えることができます。
高齢のお父さんの子どもへの影響については、今後もたくさんの研究がされていくことと思います。今回は、疫学研究のお話ですが、遺伝学的研究でも、精子のメチレーション(DNAの配列を正しく読む機構)が加齢に伴い変化することがわかってきており、今後、大きな話題となると思います。
年頭にあたりお話することが、いつもと同じ結論になってしまいますが、皆さんにとってとても大切なことだと思いますので、述べさせていただきます。男女とも、もし、将来子供を持つことを考えておられるならば、若いうちから妊娠適齢期に関わるいろいろな知識を得て、自分の人生設計をしていただきたいと思います。

引用元:
《27》 父親の加齢と子どもの精神疾患(apital)