2012年、日本国内における母親の平均初産年齢がついに30歳を超えた。それどころか周りを見回せば40歳以上の初産も珍しくない。そのため何の根拠もなく「私も高齢出産できる」と考えがちだが、『間違いだらけの産活』(丸田佳奈/学研パブリッシング)によると「その考えは甘い」という。また、医学的には間違っていることが一般的には常識としてまかり通っているらしい。そこで本書を執筆した産婦人科医の丸田佳奈さんに、今どきの妊婦に対する思いや、妊娠・出産の間違った常識について伺った。

■10カ月間ベッドの上で寝た切り生活を送れますか?

 現在、総合周産期母子医療センターを併設する大学病院に勤務する丸田医師。日々、普通の産婦人科や助産院では受け入れられないような高リスクの妊婦たちと向き合ううち、「間違いだらけの産活」を執筆することを思い立ったそう。

「私のところに来るのは、年齢が高かったり、持病があったり、母体搬送されてきたりするいわゆる高リスクな妊婦さんばかりなんですが、そうした人の中には自分が想像していたような妊婦生活を送れなくて不満やわがままが出てきてしまう人も少なくないんですね。実際の例ですが、“もう帰ります、赤ちゃんのことはもういいです”とか“ここにいることのほうが私の体には良くない”なんて無責任なことを言い出す人までいて…。母子ともに危険な状態だというのにそんな発言をしてしまうのは何故かと考えた時、知識がなさすぎるせいなのではと思ったんです。それで高リスクな妊婦さんと日々向き合っている私ならではの目線から、こういう状況は特別じゃない、あなたにも起こり得るんだということを世の中の女性皆さんに知っておいてほしい、という思いを込めてこの本を書こうと思いました。極端な話、妊娠するのであれば“10カ月間ベッドの上で寝た切り生活を送れますか?”という質問にイエスと言えるくらい覚悟が必要ということを、もっと皆さんに持ってほしいというところから始まったのです」


■“自分も40歳以上で良い“という考え方は間違い

最近特に増加傾向にある、高齢妊婦についてはどんな思いがあるのだろう。

「年齢と共に妊娠の確率は徐々に下がり、とりわけ35歳以上になると、その確率はさらに低下し、また妊娠中のトラブルも増えます。高齢での妊娠は今の社会では仕方のないことですが、何の情報もなく生活していると気付かないうちに妊娠に適した時期を逃してしまい、後悔しかねません。前もって情報を知った上で、リスクを背負ってまで高齢で出産をするのか、早めに産んでおくのかを考えて人生設計をして欲しいですね。安心して妊娠・出産をするためにも、進学・就職といった人生設計の中に妊娠・出産を組み込んで欲しいということです」

 続けて、20代後半の自分の展望が分かってきたところで妊娠・出産を含めた自分の目安を決めておくことが大切と丸田医師は語る。そして高齢になればなるほど厳しい現実が待っている、ということを頭のどこかにおいてほしいという。

「妊娠・出産は、本当に覚悟が必要なこと。若い人はトラブルも少なく妊娠期間を経過して出産する人が多いですが、高齢だと赤ちゃんの染色体異常が起こりやすく、また妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症も多くなり、お産も難産になりやすいんです。実は妊娠の最初から最後まで気が抜けないんです。総合的に考えると35歳までを一段階として考え、その年齢を目安に焦りはじめて良いと個人的には考えています。最近は芸能人が高齢で出産した、という話題がたびたび流れますが、最初から“自分も40歳以上で良い“という考え方はやめてほしいですね」


■医療が進歩しても、生殖に適した年齢だけは変わらない

 最近の出産の傾向としては、女性が仕事でキャリアを積むことが普通になってきたことで晩産化に拍車がかかり、高リスクな妊婦が増えている印象があるという。

「仕事に打ち込む女性は妊娠にちょうど良い時期に働いてしまうので、20代の終わりでそろそろ結婚をと考えはじめて、数年で結婚したとしても35歳に近づいた頃にいざ妊娠・出産を計画しても、なかなか妊娠できない、意外と時間がないんだと気付く…という人が多いですね。高齢になるにつれてなんとなく妊娠しにくくなることは知っていても、他人事で“私は大丈夫”という考えがどこかにあったり、真剣に考えていないところがあるのかなと思います。やっぱり知識不足なんですね」

 若いころは妊娠しないように一生懸命ピルを飲んでいたのに、いざ赤ちゃんが欲しいと思ってピルの使用をやめてみても、全然妊娠できなくて焦る…というようなケースも多いそう。

「時代が変わっても、医療が進歩しても、生殖に適した年齢だけは変わらないので、そこもきちんと考慮して欲しいんです」


■現代人は、昔より妊娠しにくくなっている?

高齢になるにつれて妊娠しにくくなるほか、染色体以上などのリスクは高くなると言うものの、若いからといってリスクがないとは言えない、と丸田医師。

「20代で不妊治療している人もいますし、男性で精子の数が減ったり元気がない人も増えています。環境因子もあるのかも知れませんが、昔に比べて妊娠しづらい方が増えていると感じています。いわゆる“妊活”はその後の“産活”に続いていきますから、妊娠したらこうなるという情報を仕入れた上で、今の妊活で良いのか、いつまで続けるかを考えておいて欲しいですね。例えば45歳になったけれど、今産んで良いのかとか、もし妊娠・出産において予想外のことが起こった時に自分と家族はどう対応していくのかということも含めた上で、出産を考えてほしいのです。この本を読むことでそうしたことを考えるきっかけにもなるはずです」

■「妊娠に安定期はない」は現場の常識!
 本書の中では、一般的に言われている妊娠期間中の常識が、実は間違いだったという例が52も書かれている。その中で、一番インパクトがあるのは「安定期はない」ということかもしれない。これは知らない人が非常に多そうだが…。

「毎日のように診察で聞かれるのが“もう安定期に入りましたか”とか“安定期に入ったら何をしていいですか”というものなんですね。でも実は安定期という言葉は医学的にはなく、あくまでも妊娠初期の流産をしやすい時期と、後期の早産をしやすい時期を除いた時期があるだけなんですよ。もし妊娠初期や中期に切迫流産になったら、そこからずっと安定した期間なんてないですしね」

 では、ここまで安定期という言葉が一般的になってしまったのはなぜなのだろう。

「担当医が“症状が少し落ち着いたので○○して良いですよ“と許可を出してくれたのを、安定期と捉えてしまった可能性が高いですね。ですからこの時期なら何をしても良いというわけではないですし、最近流行りの“マタ旅”(妊婦が旅に出ること)も、個人的には止めたほうがいいと考えています」

 また、安定期という確実なものはないが、何をやっても流産しない人はしないし、する人は何度も繰り返してしまう人もいる…という個人差はあるのだそう。

「流産しないかどうかを妊娠中に見極めることは難しく、結果的に何をしても大丈夫だったというのが最後に分かるだけなんです。ですから誰かがどうだったからではなく、自分はどうかということを必ず担当医に聞いて、指示を守って欲しいですね。あなたの経過を一番分かっているのは担当医ですから」


■“妊娠したら自転車に乗ったほうがいい”は間違い
「妊娠したら自動車より自転車に乗ったほうがいい、というのも間違いですね。自転車はお腹に力を入れて乗りますし、何よりお腹が大きくなってから乗るとバランスを取るのが難しく、転倒する可能性が高くなります。ほかにも、マルチサプリにはビタミンAが入っていて摂りすぎると赤ちゃんに脊椎の異常が出てしまうので注意を。また、妊婦さんのお母さん世代の人から“安静にしてたくさん食べて”と言われて、太り過ぎて問題が出るケースも。昔と今は栄養事情が違いますし、妊娠に対する常識はかなり変わってきていますから、やっぱり担当医に指示を仰いでほしいんです」

 また妊娠中は、嗜好品の取り方についても気になるところ。

「基本、タバコは1本でもダメ。家族には違う部屋で吸ってもらいましょう。アルコールは少量なら良いとも言われますが、安全な摂取量が確立されていませんし、摂り過ぎは赤ちゃんに異常が出るのが分かっているので、やっぱりダメです。カフェインは適度なら大丈夫」

 このあたりも、本書で詳細に書かれているので、ぜひ参考にしてほしい。

「でも、あまり過度に敏感になるのも良くないんですね。また、周りから過度にお姫様扱いされると、わがままな“妊婦様”になってしまうことも。それで無事に出産を終えると、その後に待っているのは子育てという我慢の生活。妊娠期間中はお母さんになる準備期間、母性を育てる期間でもあります。じっくりと独身の自分から母になって欲しいですね」


■“ネットで検索”はNG! 今どき妊婦に、これだけは伝えたい!

 本書を書き終えた今、今どき妊婦に丸田医師が一番伝えたいこととは何だろうか。

「とにかく、正確な情報を仕入れて、何かあった時のためにシミュレーションしておいてほしいんです。自分がどうなるかは誰にも分からない、だからこそ情報を仕入れておいて、もしもの時に誰を呼ぶかまで決めておいてほしい。でもその際、インターネットで検索…は間違った情報が多いのでNGです。必ず専門家に聞いてくださいね。私たち産婦人科医はガイドラインにのっとって一人一人にベストな治療法を提案しているので、もし意見を聞けないと思うのなら、自分の信頼できる医師や助産師を探して、言うことを全部聞けるところに行ってほしい。そうしてハッピーな妊婦生活=産活を送ってほしいですね」

 妊活が市民権を得てから久しい。これからはその後に10カ月も続く妊婦生活を安心して過ごすためにも、本書を指南書としてぜひ手元に置いて欲しい。



引用元:
「生殖に適した年齢はいつの時代も変わらない」「妊娠に安定期はない」 産婦人科医が語る「産活」の真実(エンタメ総合(ダ・ヴィンチニュース))