三重大(津市)は今月から、がん細胞だけを強力に攻撃するよう遺伝子を組み換えた免疫細胞のリンパ球を、治験薬として全国で初めてがん患者に投与する。免疫細胞を使ったがんの免疫療法は、有効性が実証されておらず、現在は保険診療の適用外。治験で安全性や有効性を確認し、初の治療薬を目指す。


 バイオ産業支援、遺伝子医療などを手掛けるタカラバイオ(大津市)との共同研究。投与するのは三重大病院の食道がんなどの患者で、治験には国立がん研究センター中央病院(東京)や名古屋医療センター(名古屋市中区)、愛知医科大病院(愛知県長久手市)なども参加する。


 この免疫療法はがん細胞の表面に現れる特定のタンパク質を目印に、リンパ球(T細胞)が、がんを攻撃する免疫反応を利用する。このリンパ球を大量に培養し、患者の体に戻してがんを治療する。


 だが、がんを攻撃する働きがあるリンパ球は数万〜百万個に一個と少ない。さらにがん攻撃を抑え込むリンパ球もあり、従来のやり方では培養の際にそれらも一緒に増えるため、十分な効果が出なかった。


 三重大医学部の珠玖洋(しくひろし)教授は二〇〇五年、がんを攻撃するリンパ球の遺伝子を発見。患者の血液から採取したリンパ球にこの遺伝子を組み込んで数百倍に培養し、がんへの攻撃力を高める方法を、タカラバイオと開発した。治験を担当する影山慎一教授によると、リンパ球が攻撃する目印となるタンパク質は、食道がんの細胞表面に大量に発現する。卵巣がんや頭頸部(けいぶ)がん、皮膚がんにもあり、効果が期待できるという。


 三重大は治験に先立つ臨床研究として、一〇〜一三年に余命が半年程度と想定された末期の食道がん患者十人に、遺伝子を組み換えたリンパ球を投与。このうち、すでに亡くなった七人の平均生存期間は十カ月で、重篤な副作用はなかった。四十〜六十代の男性三人は現在まで、二年以上生存している。


 治験は、三重大や国立がん研究センター中央病院などの患者十二人に予定。十年以内の治療薬開発を目指す。影山教授は「良い結果が出れば、治療法のない患者の大きな望みになる可能性がある」と話している。


引用元:
三重大、がん治験で初投与 遺伝子組み換えリンパ球(中日新聞)