ネット・テレビ通販からコンビニやクリスマスのプレゼント売り場まで、目にする機会が増えて身近になりつつある「遺伝子検査」。もはや占いによらずとも、遺伝子検査をやれば自分の才能も将来かかる病気もピタリと言い当ててくれる? !  そんな過度な期待を抱いている人は要注意だ。

そもそも遺伝子検査には医療用、親子鑑定などさまざまな用途のものが存在する。そうした中で、最近話題になっているのは、病気にかかるリスクや体質、性格などを分析する個人向けの遺伝子検査。ネットなどで数千円〜数万円の検査キットを購入し、唾液や口腔内の粘膜を検査会社に送ると、1カ月前後で結果がわかるというものだ。解析機器の進化による低コスト化が普及を後押しした。

■ 300項目の解析サービスも登場

 2014年は1月にジーンクエスト、8月にディー・エヌ・エー(DeNA)、11月にファンケルとヤフーが個人向け遺伝子検査ビジネスを開始。従来は遺伝子検査で「肥満体質」など一つの体質を調べ、ダイエット食品の販売につなげるような「入り口」としてのサービスが主流だった。一方、最近目立つのは、検査自体をメインにした最大300項目程度の大規模解析サービス。30〜40代の男性の利用が多い。

 今では検査技術が確立されており、遺伝子情報の読み取りに間違いが生じることはほとんどない。遺伝子情報の取り扱いも、「匿名化しビッグデータとして研究に利用」など、各社がそれぞれに利用方針を明らかにしており、故意に悪用される可能性は低い。

 しかし、肝心の検査結果は当てになるのだろうか。実のところ、現在可能な範囲で最善の科学的根拠に裏付けられているとは言えるが、検査を受ける人が期待しているほどの確実性があるとは言えない。
 「遺伝子検査=白黒がつくもの」というイメージは、2013年に米女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが遺伝性乳がんの遺伝子検査の結果を基に乳房の予防的切除をしたことの影響もあるかもしれない。しかし、ジョリーさんが受けたのは診断を目的とした医療用の検査で、本稿で話題にしている個人向け遺伝子検査とは別物。ジョリーさんの場合、BRCA1という遺伝子の変異が見つかり、87%という高い確率で遺伝性乳がんの発症が予見されたため、健康な乳房の切除に踏み切ったのだ。

 事業者による個人向け遺伝子検査では、検査結果が診断や治療方針に影響を与えるような遺伝性疾患を扱うことはできない。医師法第17条で「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定められているからだ。扱えるのは、遺伝要因以外に環境要因が大きく影響する、生活習慣病やがんなどの病気や体質などに限られる。

そのため、結果の文言はあいまいにならざるをえない。「あなたの遺伝子型の脳梗塞を発症するリスクは日本人平均の1.5倍です」「あなたの遺伝子型は飲酒で顔が赤くなりやすいタイプです」――あくまで「あなた」ではなく、「あなたと同じ遺伝子型を持つ集団」の傾向がわかるだけ。その集団の中で自分がどこにいるかまではわからない。

■ 「肥満体質」の検査は不十分? 

 病気のリスクを示す「○倍」も数字が大きいとドキッとするかもしれないが、「5000人に1人」の確率が「5000人に2人」に上がっただけでも「2倍」。検査の性質上、運命が決まってしまうほどのことが書かれているはずはない。むしろ漠然としてとらえ方が難しいくらいだ。

 難点はそれだけではない。現在の遺伝子検査では、本来多数存在するかもしれない関連遺伝子やそれらの遺伝子にある塩基のうち、ごく一部しか検査に活用していない。

 たとえば、肥満体質の検査では、3〜4個の遺伝子の中の特定の塩基の多様性を見ることが一般的。しかし、人のエネルギー代謝に影響する遺伝子は、見つかっているものだけですでに200以上。どの遺伝子のどの塩基が変異しているかによって、影響度に差があることもわかっている。

各社は「この検査ではこの学術論文を根拠にこの遺伝子を解析しています」というような形で科学的根拠を示していることが多いが、その検査や論文で取り扱っていない遺伝子情報が本来大きな影響を及ぼしている可能性は否定できない。検査会社によって調べる遺伝子や結果の算出方法が異なるため、別の検査で全然違う結果が出ても不思議ではない。

 また、子どもの才能を調べる遺伝子検査の一部では、ベースにしている研究の結論から飛躍した解釈が横行しているケースも見受けられる。たとえば、「色彩感覚」の検査で使うCBP・CBD遺伝子は、赤緑色盲の遺伝子。「(音楽にかかわる)聴覚」の検査で使われるのはGJB2やMT-CO1といった難聴の遺伝子。異常がなければ「才能がある」という判定が下されるとしたら、違和感を持つ人も多いのではないか。

 臨床遺伝学を専門とする北里大学の高田史男教授は、「今の遺伝子検査は根拠に乏しいうえ、受けた人の不安をあおったり、逆に必要以上に安心させたりしてしまう」と手厳しい。

■ 事業者も問題点を認識

事業者側にも、「遺伝子検査は万能ではないということを、もっと知ってもらわないといけない。結果の正しい理解を助けるためにヒストグラムで伝えるなど工夫を続ける」(DeNAライフサイエンスの深澤優壽社長)との認識がある。

 ただ遺伝子研究は日進月歩で進展しており、今後さらに信頼性の高い検査ができるようになる可能性は十分にある。現在、数十万人規模の集団に対して遺伝子情報や生活習慣と健康状態などの関連を長期間にわたって追跡調査する「コホート研究」が世界中で本格化している。10〜20年後にはコホート研究で得られたデータベースを基に、より精密な遺伝子検査ができるようになっているかもしれない。

 だが、少なくとも、今の遺伝子検査を全面的に信頼しきってしまうのは考えもの。健康に目を向けるきっかけ程度にとどめておくのがよさそうだ。

引用元:
遺伝子検査で「運命」まではわからない(社会(東洋経済オンライン))